―――…

 夢を見た。遠い、遠い昔の夢。
 綺麗な花畑の中で、幼い少女と少年が何かを話している。

『俺、もう少し大きくなったら騎士になるんだ。』

 少年の告白に、少女は驚いて息を詰まらせた。ショックを受けたのか、無言で俯く。

 それでも、少年は迷わず話を続ける。

『騎士になったら、もう村には戻ってこないかもしれない。それでも、俺は騎士になって……』

―― 君を守りたいんだ。



「…ッ!」

 突然走った強烈な頭痛に、エリカはベッドから飛び起きた。

 荒い息づかいのまま、辺りを見渡す。

 床に霜が降りており、まだ朝が早いことが分かる。
 まだ寝ていてもおかしくない時間だが、目が覚めてしまったエリカは、一旦ホテルを出た。



 マリーリリーに咲き誇る花たちにも、霜が降りかかって、キラキラと輝いている。

「はぁ…。」

 深い溜め息を吐いて、誰もいない街を歩く。

 1人佇んでいた時、

「おねーさんだぁれ?」

 不意に、声をかけられ、エリカは驚いた。

 目線を足元に落とせば、そこには栗色の髪を赤いリボンで2つに分けた女の子がいた。
 大きな黒い瞳をくりくりさせながら、舌っ足らずな声で、女の子は問う。

「おねーさんは、なんで早起きしたの?」

 首を傾げる女の子に、エリカは優しい口調で答える。

「少し散歩がしたかったんです…。貴方は?」
「んー、シャロンはねぇ、お花さんつみにきたの!」

 ニコニコと笑う女の子―シャロンの手には、色とりどりの花が握られていた。

「街の花ですよね? とっても良いのですか?」
「だめ!おこられる! だからシャロン、ないしょで早起きしたの! おねーさんも、ないしょね!」

 シャロンは唇に人差し指をあて、「しー!」と息を吐いた。
 それを見て、エリカは柔らかく微笑んだ。

「分かりました。内緒、ですね?」

 シャロンは笑顔で頷いた。

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