エリカは今、騎士団本部の門の前にいる。昨晩から任務に出ていて、ようやく帰って来たところだった。

「お菓子くれなちゃ悪戯するぞ!」

 そんなエリカに、カボチャ頭の子供がしゃあしゃあと話しだす。

「年に一度のハロウィンだぞ! 大人は子供にお菓子をあげるんだ! trick or treat!」
「悪いが、生憎お菓子は持ってない。他を当たってくれ。じゃ。」

 そう言って門を開けるエリカ。とりあえず、寝たい。
 カボチャ頭は不機嫌そうだ。

「悪戯するぞ! いいの?!」
「あー…分かった分かった…。」

 泣きそうな声で「trick or treat!」と叫ぶカボチャ頭に、ついにエリカが折れた。

「とりあえず、今持って来るから、ちょっと待ってろ。」

 そう言い残し、エリカはひとまず騎士団本部へ入った。




「はぁ…。」

 入ってすぐに、エリカは溜め息を吐いた。

「お帰りなさいませ! お疲れですかぁ?」

 まず、一番最初にエリカを出迎えたのは、メイドのクラム。心配そうにエリカを見上げている。それに対し、「大丈夫だ」と返したエリカは、クラムに問う。

「いきなりだがクラム、お菓子を持っていないか?」
「お菓子ですか? ちょっと待ってて下さい…。」

 そう言うと、クラムは徐にポケットの中を探る。しばらくして、「あっ!」と声を上げた。

「ありました、ありました! どうぞ!」

 ニッコリ笑って手渡されたのは、大きなペロペロキャンディー。よくポケットに入っていたもんだ。

「すまん、ありがとう。」
「ふふふー…。いいってことですよ! 今日はハロウィンですしね!」
「ハロウィン?」

 聞いた事のない単語に、エリカは首を傾げた。それにクラムは驚いた顔をする。

「まさか、知らないんですか?!」
「あぁ、聞いたことがない。」
「んー…まぁカプカプ星から来た王子は分からないでしょうね…。」
「どこだそこは。私はこの時期は長期任務が多いんだ。」

 ぷいっ、と視線を逸らすエリカに、クラムは少し悩んでから、明るく話す。

「まぁいいでしょう! ていうか、知らないならなぜお菓子を? 甘党なんですか? 急に食べたくなったんですか?」
「いや、外の子供に"trick or treat"と言われてな。なんでも、お菓子を寄越さないと悪戯をするらしい。」
「な、なんと…! それはハロウィンの定番イベントですよぅ! 早くお菓子持ってってあげて下さい!」
「? おぅ。」

 クラムに言われるや否や、エリカはとりあえず本部を出た。



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