clap | ナノ
thanks!!
インターフォンは鳴らなくしてある、面倒そうな言葉を聞いたのは、そういえば随分と前の事になるのかも知れない。
当たり前の如く、鍵の掛っていないドアに手をかける。無用心だと思うのだが、それを告げれば、アイツは憎らしげにこう言うのだ。
「世界で一番物騒な君が勝手に入ってくるのに、誰を警戒すればいいのさ」
一発くらい殴ってやろうかとも思うが、全く外に出てない白い肌とか、細い腕とか見てると、逆に簡単に折れそうで怖くなる。
それに、なんだかんだ言って俺は、人に暴力を振るった事一度もない。そんな当たり前の事を、出来たら一生守っていきたいと思っていた。
「そうか、じゃあこれはいらねーよな」
コンビニの袋をちらつかせ、釘付けになった視線から逃れるように背に隠す。
「ちょ…シズちゃん、いじわるしないでよ。何買ってきたの?」
「ハム玉子サンドと、鮭にぎりと、ツナマヨ」
「ん」
当然の如く手を伸ばしてくる。
何様だ、お前は。
「だって、昨日から何も食べてないんだもん。お腹減ったよ」
「だから、俺が来なくても自分で買い物なり出前取るなりすりゃあいいじゃねぇか」
「嫌だよ。コンビニの店員の声を聞くのも嫌だし、出前の人と強いられる会話もイヤだ。それだったら、シズちゃんが毎日飽きもせずにセレクトするツナマヨ食べてたほうがマシ」
「……マジで持って帰る」
「えっ、なんで?!」
バカだ、コイツは。
俺の幼馴染ーー臨也は、頭が良ければ、顔も良い。性格はまぁ…色々とアレだけど、話してて飽きないし、友達だっていくらでも作れるタイプだと思う。本人が、病的なまでの人間嫌いを克服したなら。
「昨日、せめて一日一回は外に出るって約束したよな?」
「だって、約束しないとご飯くれないんだもん」
「だってじゃねぇよ!約束は守りやがれ!!」
「もー。シズちゃん声大きい。そんなに大声だすと近所迷惑だよ?」
「”人に会うのがイヤだから”って、マンション丸々買い取ったのは誰だ?ああ??」
臨也は、頭がいい。
俺が一生かけて稼ぐ以上の金を、ネットゲームの間に稼いでしまうくらいには。
こっちは日々の家賃にも苦労してるってのに…。
「だから、シズちゃん住んでもいいよって言ってるじゃん」
「いや、それは嫌だ。てゆーか、俺口に出してた…のか?」
「うん。シズちゃん、本当に俺の事好きだよね」
へらりと、臨也が嬉しそうに笑うから。
そんな事ないと言う声が、なんとなく弱くなってしまった。
たまに、ほんのたまになのだけれど。
臨也は、このまま人間が嫌いでもいいじゃないかと思ってしまう時がある。
誰に迷惑をかけているわけでもないし、
こうして笑う顔は、なんだか幸せそうに見えるから。
でも、それは本当に臨也の為かと聞かれれば、そんな事は決してないと言うべきだ。
だって、もし俺が事故で死んだらどうするんだ?
こいつはこのまま、誰も訪れないマンションの最上階で、干からびて死ぬかもしれない。いや、多分干からびる。
「…シズちゃん、なんか失礼な事考えてない?」
「ーー臨也」
「…ん?」
「明日は外に出るな?」
俺の言葉に眉を寄せた臨也の言いたい事は、よくわかる。またその約束?そう言いたいんだろう。けれど、俺もこれだけは譲れない。
「…………わかった。明日ね」
俺たちは、約束を繰り返す。
叶う事の無い約束を。
それこそ、どちらかが死ぬまで きっと毎日。
end
エイプリルフールシズイザ。
人間嫌いの臨也さんと、暴力なんてふるった事のないシズちゃん