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アルコールに包まれて、ふわふわとした頭が”何かが居る”と囁いた。

しかし、その囁きが身体を止めるまでの間は意外と時間がかかってしまった。具体的に言うなら、その”何か”の裾を、踏みつけてしまうくらいの時間であった。

”何か”は酷く驚いた様子で俯いていた顔を上げた。しばらくじっと腕の中に顔を埋めていたのだろう。服の皺が顔にも移っている。思わず笑ってしまった静雄は、その”何か”をひょいと持ち上げた。じたばたと暴れる”何か”は少々煩かったが、今の静雄はそれすらもイラつかない程に上機嫌だったのだ。

投げられるとでも思ったのだろうか、身構える”何か”を肩に担いで、ポケットの中から鍵を探る。カチャリ、と安っぽい音の後、冷え切った部屋へ足を踏み入れる。暗いままの室内。担いでいた”何か”をベッドに投げると、それはギャアギャアと煩く喚いた。あまりにも煩かったので、喚く口を塞いでしまう事にした。

一瞬止まって、また文句を言おうとしたので遠慮なくその舌を舐めつける。絡めて、吸って、甘く噛んで。唾液が絡む音と、鼻から息を逃がそうとする甘ったるい”何か”の吐息が重なって、静雄はベッドに押し付けた身体に乗り上げて、その唇を貪った。


「ーーっ、ケダモノ…」

”何か”がまた、口を開いた。
涙の膜が張った瞳には、隠しようのない欲情。そして、その瞳に映る自分もまた同じ色を抱いている。

確かに”何か”が言う事も正しいのかも知れない。会話も交わさず、したい事を、したいようにしているのだから。

シャツの中に手を潜ませれば、眉をひそめながら、まだ快楽だけには染まらない瞳がじっと静雄を見つめてくる。一つ一つの動作の意味、込められた感情を探る様に。


「最近のプレゼントは喋るんだな」

「…バカじゃないの」

”何か”は、心底バカにしたようにそう言ったが、静雄は”何か”が本当は、照れて照れて仕方がない事にも気付いていた。

「別に、俺は…その、そういうつもりで来たんっ…!

言葉は特に、必要ではなかった。嘘ばかりのそれならば、尚の事。

「来れないって言ったの、テメェじゃねぇか」

「…た、たまたま仕事が早く終わったんだよ。言っとくけどコレ、ほんとだからね?!」

「あーハイハイ。てか来てんなら連絡すりゃ…あ、」

思い当たる事があって、携帯を探る。
そこには、二つのメールと、一つの着信。

「…わり」

「………べつに。会えなかったら、それでも良かったし」

「俺は、お前に会えて嬉しいけど」

酒に浮かれた頭で、くつくつと笑いながら玄関先に自ら届いた”プレゼント”を抱きしめる。

「ありがとな、臨也」

「………ん」

真っ赤な”プレゼント”は、こくんと一つ頷くと、それからもう、嘘は言わなくなった。







一日限定、素直な”何か”
(精一杯のプレゼント)




end





シズちゃん、お誕生日おめでとう!