2位の部屋・・・漆原大地&桜井愛音
ドアの前で、桜井愛音は佇んでいる。
「うーん・・・」
入っていいものだろうか。ここに来るようにとやたら偉そうな態度の女性に言われてきたけれど、今日は平林の酒屋の配達も結構入っているから、本音を言えば帰りたかった。
何をするんですか、と聞けば、ただこの部屋に少しの間いてくれたらいいから〜と言われたのだ。
それって、どういう事??
頭の中をハテナマークで一杯にしたけど、平林の両親が「行って来い」と背中を押してくれたものだから、取りあえず来てみたのだけれど―――――――
ふう、とため息をついて、ドアをノックした。中には誰か、いるのかなー?
「・・・はい」
低い声で返事が聞こえたから、愛音は失礼します、と声を掛けて入ってみる。
中は長机と椅子がおいてある、会議室のようだった。そこには男が一人。現在恋人の平林孝太ほどではないにせよ、かなり長身の人なんだろうと判った。
長い足を持て余したようにだら〜っと机に頬杖をついている。伸びた前髪の間からちらりとこっちを見た。
「・・・ええと、こんにちは」
取りあえず挨拶をすると、相手は会釈をしてきた。・・・年上っぽい。そして、この人はどうしてここにいるのだろう。
面接?いやいや、だって私、何の仕事にも応募してないしな。
いつまでもそうしていても仕方がないので、愛音は部屋に入り、一瞬躊躇してからドアを閉める。そして一番端っこに腰掛けた。
部屋の中はシーンと静まり返っている。
「・・・・・・」
ど、どうしたらいいんだろう。孝太さんがお喋りだから、静かな男性といるとどうしていいかが判らない〜・・・。帰りたい・・・。愛音がそう思っていたら、件の男性は大きな欠伸をした。そしてだら〜っと顔をこちらに向けて口を開いた。
「・・・漆原と言います」
「あ、私は桜井です」
愛音は急いでまた会釈をする。漆原と名乗った男性は指でぽりぽりと鼻の頭をかいてから、ぼそっと言った。
「何だかよく判らないんだけど、とりあえず、誰か来たりで変化があったら起こしてください」
「え?・・・あ、はい」
「宜しく」
そう言うと、男の人は突っ伏して寝てしまった。
「・・・・」
コチコチと響くのは時計の音だけ。
うわーん、帰りたい〜!!寝ちゃったよこの人〜!!
困惑してうんざりした愛音は一人、部屋の端っこで困り果てている。
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