1位の部屋・・・楠本孝明&小川(桑谷)まり
コンコンとノック。
既に中に入って革張りのソファーでのびのびとしていた男は、反射的に体を起こして出迎えの姿勢をとった。
がちゃりとドアが開く。
相手が見えた途端に、部屋の中の男と部屋の外の女はハモった。
「「げ」」
男は楠本孝明。保険会社でファイナンシャルプランナーとして忙しい日々を送っている。誰が見ても「美男子である」と認めるこの男は、ソファーに座りなおした後、折角の端整な顔を歪めて言った。
「どうしてまりっぺがここにいるんだ?」
「お言葉ね」
そう返した女は桑谷まりという。旧姓、小川まり。彼と彼女は大学時代からの悪友であった。
胸下までの髪を揺らしながら、女はわざとヒール音を立てて部屋の中に入ってくる。
「退きなさいよ、レディーファーストって言葉を知らないの?」
楠本の前に仁王立ちになって、まりは上から言い放つ。楠本の眉間に皺が寄る。彼は口元をくっと上げて、切れ長の瞳を細めて威嚇し返した。
そして、ハスキーな声でゆっくりと言う。
「ここにレディーがいるなら教えてくれ。居るなら勿論、失礼があっちゃいけねーよな」
まりがにっこりと微笑んだ。濡れたような目は優しく細められ、唇が綺麗な三日月を形作る。
「そうね、女性をエスコート出来るほどマトモな男性がいたら、教えて差し上げることにするわ。どうやら目の前にいるのは金メッキの愚像らしいから」
二人の目から光線が発射された。
「んだと!?」
「んだよっ!!」
親友と呼べるこの二人がやってきた数々の冒険の記録は大量にあるが、その数にも負けないほどの喧嘩の歴史も大量にある。
一番酷いときには二人とも病院送りになって、大学から謹慎処分を受けたこともあった。
今ではお互いに34歳になり家庭を持っているというのに、たまーに会えば取りあえず威嚇から入る二人なのだった。二人にとって、これは挨拶みたいなものである。そして、その後は長時間に渡る酒盛りが始まり、夜を徹して一緒に飲んだくれる。ちなみに、まりは酒には強いが、楠本には負ける。
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