Mama said to me.


 1、目を使え 


 ママはあたしによく言ってた。

 恋愛に一番使うのは、目よって。

 目を使う?

 あたしは首を傾げる。

 そう、一番雄弁なのは瞳よ。その色や表情で、何よりも正直に気持ちを表現するのよって、ママは言う。

 下手なお喋りより、ただじっと相手の目を見詰めなさいって。

 あたしはまだよく判らなかった。

 でも彼に出会った時。

 あたしの瞳の表面にはとろりと水分が張り付き今にもぽたりと零れ落ちそうになった。

 目が離せなくて困った。

 彼は遠くで笑っている。

 友達に囲まれている。

 こっちなんて気付いていない。

 こっち向け!あたしは命令形で祈る。

 遠くて言葉は届かない。

 だけど、確かに瞳なら。

 きっとこれ以上ないってくらいに上手に表現してるはず。

 ‘あなたと話したいの’

 ‘こっちに来てくれない?’

 ‘あたしに笑ってくれない?’



 2、香りをまとえ



 ママはよくあたしに言ってた。

 そして、香りも大事よって。

 清潔な肌には素敵な香りがある。別に香水で武装することはないわって。

 嫌味になってしまったら全てが台無しよ。

 あなた特有の香りなの、それで特別な男の子を虜にするのよ。

 だから、きちんとお肌の手入れをしなさいって。

 あたしはよく判ってなかったけど、はーい、って答えた。

 10代は石鹸の匂いに命をかけた。

 20代は香水だって覚えた。

 そして今では、あたし特有の香りが判る。

 だって彼が寄り添って、嬉しそうにするんだもの。

 特に何もしていないこの体から、いい匂いがするって。

 この香りが好きだ。

 もっと近くにおいで。

 そして手を伸ばす。

 これが、香りの魔法ね、ママ。



 3、夢の中で遊べ



 ママはよくあたしに言ってた。

 夢の中で遊びなさい、ダーリンって。

 夜は特別な時間なの。体を休めて、自分の好きな世界に浸れるの。

 何をしようがあなたの自由よって。

 だからあたしは夢の中にあなたを呼んでよく一緒に遊んだの。

 ピアノを叩いたり。

 そしてキスしたり。

 草原で鬼ごっこをしたり。

 そして手を繋いだり。

 空を飛んで外国まで旅行したり。

 そしてあなたは微笑む。

 その笑顔も独り占め。

 起きた時の気分は良好。

 さすが、ママ。



 4、隠す魅力を学べ



 ママはよくあたしに言ってた。

 隠すと魅力は増すものよって。

 肌は出来るだけ見せないの。簡単にみせちゃ有り難味がなくなってしまう。

 ちらりと見えるふくらはぎや足首に、男性がどれほどドキドキすることか。

 そして腕も胸元も。

 それは、着ているものだけに限らない。

 自分の全てを見せてはダメよって、言ってた。

 奥が深いと思わせると、それだけ男の子は夢中になってくれるわ。

 正直なのとあけっぴろげなのは違うの。それを理解しなさいって。

 嘘をつく必要はないのよ、ただ、言わないだけ。

 あたしは判らないままだけど、実行している。

 何を聞かれても一度に全部は教えない。

 にっこりと笑ってかわせば、その話題は永遠に二人のもの。

 不安になった男の子を惹きつけて離さない特効薬だってある。

 ‘あなただけに、教えるわ’

 その一言は、本当によく効くんだから。



 5、男は追いかけるな



 ママはよくあたしに言ってた。

 男の子と付き合えるようになったら、これだけは覚えておいてって。

 男は、追いかけちゃダメよ。

 それは男の仕事なんだからって。

 元々女は何か追いかけたりするようには遺伝子的に出来てないの、追いかけられる女になりなさいって。

 あたしは言った。

 ‘だけど、とても好きな人が出来て離れていってしまったらどうすればいいの?’

 ママは微笑んだ。

 ‘戻ってくるのを待ちなさい’

 その間に更に自分を磨いておくの。そして他の男の子のことも考える。

 自分を可愛がる。こちらからは連絡は取らない。

 それで終わってしまうなんて、一緒になっても先の未来はみえているじゃないって。

 だけどそれではあたしはボロボロになってしまうわってあたし。

 するとママは言った。

 だけど、その経験があなたを更に素敵にするわって。

 恋をして、叶わなくて、耐えた体や心はしっとりとした魅力をあなたに授けてくれる。人間が深くなる。

 時間が経つのをじっと待つの。

 出来るかしら、あたしは呟く。

 しなければ。ママは答える。

 追いかけて手に入れるものは夢だけにしなさい。

 男は、生きている男を夢にしちゃ駄目よって。

 ママはあたしに言った。

 だからあたしは追いかけなかった。

 大好きだったけど、あの彼のこと。

 彼は戻ってこなかったけど、その代わりにあたしは確かに成長した。

 そして、今、隣で笑う彼を手に入れたの。

 さすが、ママ。



 6、我儘と正直は違う



 ママはよくあたしに言ってた。

 我儘と正直は違うわ、ダーリン。そこを履き違えてはダメよって。

 アイスクリームが欲しいの。買って来て頂戴、あの店のあの味でないと嫌よ!そう言って男の子を動かすのは我儘よ。

 アイスクリームが欲しいの。買いに行かない?あの店のあの味がとっても好きなの。だから、一緒に行きましょう。そう言って楽しく動いて貰うべきね。

 我儘が可愛いことなんてないって学びなさい。

 ただの我儘には誰かを試す要素が入る。それは相手に失礼なことよ。

 自分の気持ちに正直になって、それを言葉にする。それは大事なことだけど。

 あたしにはもう難しかった。

 言いたいことを言うのに違いがあるの?って思った。

 だけど、人を試すのはよくないよね、確かに。

 あたしがされたら嫌だもの。

 だから、相手にだってしない。

 あたしは言葉に気をつけることにした。

 そしたら、彼が更に甘く優しくなったから驚いた。

 ‘たまには俺を困らせてくれ’

 って、言われたから、あたしは言ったの。

 ‘あたしは永遠の愛が欲しいのよ’

 って。

 彼は困って、苦笑した。

 そして次のデートであたしにくれたの。

 キラキラと光る素敵なリングを。そして左手薬指に嵌めてくれた。

 あたしはすぐママに電話した。

 おめでとうって言ってくれたあと、ママが笑って言ったの。

 ほらね、ハニー。奇跡でさえも、基本的なマニュアルはあるものよって。



「Mama said to me.」終わり。


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