▼先程まで揺れ動き響いていた轟音が鳴り止む。代わりに聞こえたのは会場の歓声だ。
轟音と衝撃音が鳴る度に、ウェンディとシャルルの傷が響くので無いかとハラハラしていたポーリュシカは、やっとか…と一息つく
「相当な闘いが繰り広げられたようだね…」
全く、こっちには寝てる者がいるってのに…五月蝿いったらありゃしない。
そうして、彼女は自分の仕事を終えてゆっくりと椅子に座り込む。
その瞬間だった。
ドンッと大きな音を立てて、扉が開け放たれる。
「なっ…!?」
そして反射的にそちらを見やり、何事だっと声を荒げようとしてポーリシュカはガチッと固まった。
何故なら、ボロボロに項垂れているマカロフの娘、塑琉奈が、ラクサスに抱えられて運び込まれた姿があったのだから。
▼「……何故こんな無茶させたんだい…」
ウェンディ、シャルルが眠るの隣のベッド。そこに塑琉奈は一通りの処置を受けて、包帯まみれの姿のまま眠りについていた。
先程までも浅い息遣いも無くなり、垂れ流れた血も止血し、やっと一安心まできたところ。
それを最後まで黙ったまま彼女を見守っていたラクサスに、ポーリュシカは声掛ける
「……。」
「…はぁ…」
それでも返答を返さず、ひたすらに塑琉奈の隣、腕を組ながら俯くラクサスに、彼女はため息を溢した
「…幸い、軽度の魔力欠乏症で済んで良かったよ。恐らく誰かが護ってくれたんだろうね」
「……っ」
そのポーリュシカの言葉を耳にして、ラクサスは思い当たる節があるのか、ピクンッと肩を揺らした。
…そうか、あの時ラミアが塑琉奈が庇ったのは、叫んだのは、こういうこと…だったわけか…
脳裏に再生される、塑琉奈が技を受ける前。あの時、確かに塑琉奈の魔法は、ラミアは直ぐに塑琉奈に駆け寄って、まるで庇うかのように抱き締めていた。
あれは間違えなく、護るため。
それによって…塑琉奈は、ここまでで済んだ…のか。
▼「…けど、あくまで魔力欠乏症だけの話だ」
魔力欠乏症なのに関わらずこんな体をボロボロにしてまで戦って…、と塑琉奈を見つめながら呆れ顔をする彼女。
けれどもその声は、心底塑琉奈のことを身に案じている優しいトーンで。
「…もう行きな。そんな風にいられちゃ息も詰まるよ」
そして、ラクサスに向かってそう言ったポーリュシカの言葉には、『何とかしてみせるさ』という副音が重なって聞こえた気がした。
▼「…邪魔したな」
「…待ちな」
ポーリュシカの言葉に押されるかのように、ラクサスはゆっくりと扉の方まで歩み寄る。
すると、彼の背に彼女は一旦声を掛けた。
「アンタがそんな顔するくらいに大事な人なら、もう無茶はさせないでおくれよ」
私も仕事も増えるからね、っと最後にそう付け足し、フンッと鼻を鳴らす彼女。
そして、言い放たれた言葉に、ラクサスは一瞬ポカンッとした顔で彼女へ顔を向き直す
するとポーリュシカはクスッと笑った
「なんだい、自覚ないのかい?」
今のアンタの顔、相当怖いよっと笑いながら指摘をしたポーリュシカ。
ラクサスは言われてから気付いたのか、彼女の言葉に、小さく舌打ちを溢して前に向き直る
「…余計なお世話だ」
そして、上着を翻して、ゆっくりと彼は塑琉奈を残して、医務室から出ていった
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