▼司会席の声も、会場からの声も、何もなく逆にサアッと静寂が訪れる。
その目に写るは渦巻く砂ぼこりの中心の、ジュラと塑琉奈。その二人の様子を固唾を飲んで見守る
「……」
「……」
互いの拳は見事、双方も頬に衝突し、二人の口からも何も言葉が漏れることなく静かで。どちらも睨み合い、静寂の空間だけが流れていく
▼そんな時間の止まったような中、周りに立ち込めた砂ぼこりが風に纏われ去っていったと同時に、塑琉奈がグラッと動き出す
「(…も、う………だ、め…だ…)」
ジュラから拳が離れると、そのまま塑琉奈の腕はずるりっと地面に向かって垂れ下がる。
そしてガクガクと震えていた足は限界を達し、ジュラを目の前、どすんっとそのまま塑琉奈は地面に足を付けた
どんなに力を込めようとも、腕はもう紙切れのように軽く。ずっと無理矢理奥に押しやっていた倦怠感だけが、体を襲う。
そして、ぐわんぐわんと頭が回るような感覚と共に、ゆっくりと、徐々に薄暗くなっていく視界。
その中で塑琉奈は小さく笑った
「(無理しちゃって……ごめんな……みんな…)」
そして、塑琉奈はそのまま、バタンッと倒れ込み、意識を失った
▼なんて力………なんて信念……。塑琉奈殿……私はどうやら…お主をみくびっていたようだ……
いや……油断をしていたのだ。
お主に魔力が無いからと、情けを掛けようとした……私の傲り……。
ぐらぐらと、誰かに脳を揺さぶられるかのような衝撃と震動。それが身体中に響き渡り、痛みとなって駆け巡る。
そして、塑琉奈が自分を目の前に足を付いたのに、ぼうっと一気に霞み掛かった視界の中で捉える。
彼女により痛みと焦燥感満たされた体。熱くたぎる想いをこれ程までぶつけられたのは初めてだ…。
塑琉奈殿……お主は……
「…良い…母じゃ…のう」
そして、塑琉奈がバタンッと倒れたと見たのと同時、ジュラはポツリと呟きながら彼女の後を追う形で彼も意識を失った。
▼《試合終了ぉおおおお!!!!!!!まさかの従業員、塑琉奈ちゃんが、あの聖十のジュラと引き分けだぁあああ!!!》
そして、ゴングと実況の声が響くと同時に、会場中から思いもよらないワァアアア!という巨大な歓声があちらこちらから広がっていく。
実況の隣、ズズッとヤジマが鼻を啜りながら《良い試合だったねぇ…頑張ったよどちらも…!》っと声を漏らす。ジェニーはハンカチを手に涙を拭う姿まであり。
「まさか、ジュラさんを此処までやるなんて…!!」
そんな中で一目散にリオンがジュラへ駆け寄っていくと、目の前、自分と同じように彼女に駆け寄るラクサスの姿があった。
そんな彼の顔には、憤怒と安堵の混じった複雑なものが垣間見えた
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