▼「…ざ、けんな……」


押し潰されて体もギシギシと嫌な音ばかりが谺する。けれども俺は両サイドの石柱をガシッと掴む。

むしろ…ここまできたんだ。ここまでやって来れたんだ…。

ジュラを、いやアンタをそこまで、ボロボロに追い詰めるまでやって来たんだ。


なのに、棄権…?ふざけんな…そんなの易々と出来るわけねぇだろ……!!!


そのまま自分を挟む石柱を押しやるように徐々に力を込める。指を突き刺し、痺れる腕を無理やり動かして、自分の悲鳴も無視して


「アンタは…何のために此処にいる…?」


仲間のためだろっと、息切れもそのままに、そう発して…石柱に負けじと、ギリギリと自分の場所を開けるかのように、塑琉奈は渾身の力を込める。

そしてその掠れた彼女の声が、ラクリマビジョンを通じて、戦いを見守っている会場に静かに響いていく。


「俺だって…同じだ……」


もうあんな思いはしたくないんだ。

仲間や家族ばかりが俺たちのために戦って、それに手を貸そうとしなかった自分に、もうなりたくねぇんだ。

俺だってよ、家族のために戦いてぇんだよ。だから此処にいる。アンタと…戦ってんだ…!


▼自分の力に反発する石柱、それに負けじと更に力を入れて、メリメリと周りには互いの力のせいで、石柱にヒビが出来ていく


息をするのが苦しい。頭も滅茶苦茶いてぇ。足も棒みたいでフラつくし、何度殴られたか、ビリビリ体がそこら中いてぇよ。意識ぶっ飛びそうなくらいに。


けど………


「こんなの…、七年間俺たちを待ってくれた仲間に比べりゃ…、戦ってくれた家族に比べりゃ…、どうってことねぇんだよ!!!!」


そう塑琉奈が叫んだ瞬間だった、グイッと腕を広げた時にメキメキ、バキバキと彼女の力に耐えきれず石柱はみるみる内に崩れていく。

そして、彼女の叫び声は会場中に谺していき、ナツたちも、ギルドのメンバーたちの胸を鳴らした。


「おがあざぁあんーー…!!!」

「う゛ぁあ……!!漢だぁあ……!!!」


それは熱い熱い涙となって……。何度も何度も、溢れんばかりに頬へこぼれ落ちる。勿論、ナツやエルフマンの顔はもうグシャグシャで。

ぐすっ、とエルザも鼻を啜る


▼「ぐう…!?」


崩れていく石柱と共に、塑琉奈はジュラ目掛けて飛び掛かる。それを彼女の言葉に怯んだジュラは、一瞬反応が遅れて、塑琉奈が懐へ入るのを許してしまう。


ダンッと塑琉奈が目の前にやってくると、ぶあっと砂ぼこりが辺りに撒き散らし、視界が一瞬ぼやける。

それと同時に、塑琉奈の渾身の力のこもった右拳がジュラの顔を目掛けて飛んでくる


「うぁああああ!!!!!」

「うぉおおお!!!!!」


ビリビリと震動するほどの塑琉奈の雄叫び。それに負けじとジュラも声を張り上げて、彼女と同じように拳を奮う

同時に、ドォオオン!っという大きな衝撃音が、会場中に響き渡っていった。





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