▼そして、息切れが始まったと同時に、塑琉奈は両サイドから出てきた石柱に挟まれてしまう。

メキメキ、ギリギリ、とまるで万力に掛けられたように両方から力を加えられ、思わず悲鳴が上がる。


「くっ、あっ、あぁああ…?!」


受け止める気力も、壊す筋力も、避ける脚力も、石柱によってどんどん削られていく。


「母ちゃん!!!!」

「塑琉奈…!!!」


その光景、そして彼女の悲鳴を耳にして、ナツとエルザが思わず声を荒げる

それはナツたちだけでなく、会場の一角、ギルドのメンバーたちも同じで。


「お母さん…もう…やめて…」

「無理だよ……!生身で戦うなんて…!」


目の前で自分たちの母が苦しんでいる。そんな光景を目にして、リサーナとレビィが口を震わせる。他のものたちも、体を震わせ彼女を案ずる


▼「…っお母さん!!!もう棄権して!!!」


これ以上やったら、死んじゃう!
そうミラも塑琉奈に向かって声を張り上げる。メキメキ、今でも押し潰されそうな彼女の姿、悲鳴と苦しい顔で思わず目頭が熱くなる。

嫌よ…!もうこんなの耐えられない………!!!


「お願い…ラクサスからも…何か言って…」


カタカタと歯は震え、それを必死に噛み締めて口を覆う彼女。代わりに出たのは、目から熱い涙が頬を伝う。

それでも、ミラの隣にいたラクサスから言葉は発せられない。


「……黙ってろ」


そして、震えるミラの隣。ギリッと唇を噛み締めたラクサスの言葉。

その彼の言葉も、どことなく揺れるように震えていた。同時にラクサスの唇から、噛み切れた血が一筋流れたのを、ミラは知らなかった。


▼ああ…、くそ。もう…皆にもバレちゃってたか……。

ごめんなぁ…本当は、もっと上手くやりゃ良かったんだけど…


メキメキ、体から軋む音と混じって遠くから子供たちの、声が聞こえる。今にも泣きそうな、必死な声。

母ちゃん、お母さんって何度も叫ぶ声

それが聞こえた瞬間、自分への不甲斐なさについ、頭を垂れる。


ごめんなぁ…ごめんなぁ…
ここまでやってきたのに…結局心配かけちまって……


「聞こえておるだろう…?お主を案ずる皆の声が…」


そして、それに重なるように両手を合わせたジュラがゆっくりと此方に歩み寄る。

未だに俺を挟む石柱の力を緩まずに発したその声は、まるで俺をあやすような、優しい声で。


「…っう…」

「…もう棄権をしてくれぬか」


これ以上、生身のお主を傷つけたくない。

最後にそう付け足したジュラの顔からは、本当に申し訳ないという顔で。


…なんで、アンタがそんな顔をするんだ…






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