▼「は…、ぁ…、はっ…」


息をするのが、こんなにも辛いなんて。今まで思ってもみなかった……。

焼けたように熱い喉のせいで、声はまるで怪獣。

そんな声を出す唇は、歯と共にガチガチ、ガチガチ、勝手に震えてやがる。舌噛みそうだ…。

すうっと空気を取り込もうと、胸を動かすだけで、ビリビリと気管が、肺が破裂するんじゃないかって位に震動を繰り返しては

また激痛たちが俺の体をドォンと揺らしていく。


▼何とか起き上がらせた自分の体を、垂れたように反らす。

必死に胸を上下させながら呼吸をし、そして空を仰げば、広がる綺麗な水色が白く霞む視界の中に映った。


「(確か……、シャイニングを出そうとして、俺はミルクスタンプを消した…。そのまま、ジュラのとこに行こうと…したんだ。)」


そしたらラミアがいきなり叫んで、急に抱き締められて……


自分の身に何が起きたのか、ついさっきまでの事を思い出してみる。

ラミアの体温、温もりは未だに体に残っている。そしてその次へ脳を動かした時、ズゥウウンと大きな、重く響く重低音が頭痛と共に脳を襲った


『塑琉奈ちゃああん…』


同時に、脳に直接響いたのは、思い出したくもない過去を掘り起こす、聞くのでさえ苦痛な、忌々しいあの男の声だった。


▼周りはおかしいほど静かで、耳からは何も聞こえずに静寂が訪れている。それなのに、何故かあの男の声だけが、鮮明に脳に直接聞こえてきて。

あまりにも不愉快なその声に、ガチガチと震えていた口を無理矢理に閉じる


ああ、くそ…痛すぎて幻聴が聞こえやがる。なんで…あんたの声なんだ……。どうせなら……ラクサスの声が聞きてぇよ……


『痛いよねぇ?苦しいよねぇ?変に頑張っちゃってぇー!ボロボロになっててダサいねぇ…???』


望みは叶わず、気にせずにイワンの耳障りな声と、憎い言葉の羅列、下品な笑い声だけが、俺の頭の中で響いていく。

そして、彼の言葉を聞いた瞬間に俺はある答えを導き出した


「なる、ほ…ど…な」


アンタが、俺の魔力を…消したのか…。


▼『そうだよォ、本当はね、あの小娘二人で充分だと思ったんだけどよォ』


塑琉奈ちゃんが出るなら別だよねぇ…っと、まるで何処かで此方を見ていたような言い回しをするイワン

ギャハハハハ、とその声は楽しいのか高らかな笑いへと変わる。同時に俺の中で、沸々と、痛みと一緒に何かが、胸奥から溢れていく感覚があった。


▼「お母さん…」


ジュラを目の前。爆発によってボロボロになった塑琉奈が、未だに空を仰いで動かないでいるのをミラは心配そうに見つめる。

それとは裏腹、自分の隣。ラクサスが何も言葉を発せず、ただ前を見据えているのを彼女は横目でチラリと見やった。


「(きっと…ラクサスも心配、してるわよね…)」


▼…なんだ、この違和感は。


油断していたのか?いや…あそこまで戦ってて余裕でいれるほどジュラは甘い相手じゃねぇ。

ましてや、あんな大技を直撃するほど傷を負ってた訳でもねぇ。


「(嫌な、予感がしやがる)」


ぐっ、と腕を組んだ指に力を込めて、俺は静かに塑琉奈を見やる。

そんな俺の瞳に映った彼女は、苦しそうに顔を歪めていて。同時に背中に走った冷たい、悪寒に眉を潜める


「(くそ……)」


目の前で塑琉奈が苦しんでいる。血を流し、痛みを耐えている。

そんな光景を目の当たりにしながら、それでも彼女の側へ駆け寄れないもどかしさだけが、俺の中で落ちていった。






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