▼「う…ぅ、ひっ…く…」


彼女の頭上、サァアッと温かい水の雨が、ルーシィの体に落ちていく。そして、口から漏れた嗚咽と震えた体を包むように周りには湯気が立ち込めた。

そんな中で、彼女の中に落ちるは悔しさが溢れる涙が、水と共に混じり合い、落ちていく。


「(せっかく…、皆で頑張ってあんな修行をしたのに…)」


頭に浮かぶは先程の自分の試合と、その結果。自分に決して甘えてたわけじゃない。

ちゃんと、悔しい思いをしたグレイのために、皆の…家族のために戦った筈なのに…。


「結局、私…足引っ張っちゃったよ…」


何度溢れたかも分からない涙と、震えた口から出てくるのは懺悔の数。勝てた筈なのに、と未だに悔やむ心は拭いきれず…。

ルーシィは不意に、う、あ…っとまた言葉には表れられない不甲斐なさを嗚咽として溢す。


▼その時だった、突然ドォオオンッという衝撃音と激しい揺れが彼女を襲ったのは


「きゃっ…!?なに…!?」


あまりの激しい揺れにルーシィは慌てて近くにあった壁に寄り付く。

そしてズゥウンと地鳴りのように此方まで響く音と振動が、まるで波紋のように広がっていくのをルーシィは素足で、素肌で感じ取った


「(今…、誰と誰が戦ってるんだろう…?)」


▼その頃、会場では凄まじい衝撃波と共に砂ぼこりと風が会場全体を覆い尽くす。

激しい技と技のぶつかり合い。その衝撃により、観客、チームの面々、司会席からも「キャアア!」「どわぁああ!?」っと驚きに染め上げられ、全体から声が上がる。

同時にビシビシ、ビキィっと先程の巨大化したリングが粉々に砕けて、風圧と共に巻き上がる。


「いっ、ぐほぉお!?」


その光景を、ラクサスの忠告を受けずに前のめりに見ていたガジルは、あまりの衝撃波に目を細めていれば、同時に彼の顔面にリングの残骸が激突して、彼を会場の奥まで押しやった。


「…だから言っただろ」


瓦礫に当たって気絶しても知らねぇぞって。とラクサスは呟き、ガジルが残骸と共に自分とミラの隣を通り過ぎたのを目で追う。

そしてそれを見ていたミラは「こういう事だったのね」っと納得に口を溢した。


「ガジル、大丈夫かしら?」

「ほっとけ」


うぉおお!?っと勢いよく、会場の奥まで風圧と共に消えていくガジルを、二人でジッと見えなくなるまで見つめる。

そして、ガジルの声が聞こえなくなった辺りになってから

ラクサスとミラは、会場全体の見える場所まで近付き、塑琉奈の姿を確認することとした。


▼先程会場全体を包んだ衝撃波と風圧は徐々に消えていき、逆に会場は静寂へと変わる。

そして、ザァッと風により巻き上がる砂ぼこりの中心、彼らが晴れ渡るとそこには、距離を取って口を閉ざしたままに、ジュラと塑琉奈はお互いを見据えていた。

ジュラの巌山の残骸が風により更に風化していく。

それと共に、ヒラヒラと彼の纏っていた羽織が、ジュラの元を離れて、空中へ舞った。


「…こいつはぁ…愉快…!」


彼女の技を防いだ筈なのに、肌にはビリビリと地鳴りが走るのが絶えない。そして地面を伝い、ゴゴゴッと体を突き刺すようなプレッシャー。

ジュラはそれを身に受けて、思わず口を開いて笑う。


防いだというのに、筋肉が、骨が、血管が、頭が、体全身が軋むように痛いわい…。

そんな小さな体、腕で大した実力…。いや、とんだ経験者と当たってしまったものだ。

化け物は、塑琉奈殿。お主の方ではないかのう?


▼ジュラの思考を余所に、彼の表情に笑みが溢れたのを見て、塑琉奈も釣られたように、ハハッと笑う。


あれを防いで笑ってやがるよ。アクロノギアの時より威力増した筈なのによ。

まだまだ余裕、みたいな顔しやがってさ、ちょっとムカつく…。やっぱりアンタは…すんげぇ強いよ。

…けど


ゆっくりと、ゆらゆら、先程纏っていた彼の羽織。それがブオッという風と共に地面に落ちたのを塑琉奈は確認する。

そして、ぐぐっと体勢を建て直しながら、ミルクスタンプの腕をジュラに指した。


「やっとアンタの羽織、脱がしたよ」






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