▼「…なんとも不思議な魔法じゃのう!」
槍、鉄扇と続いて、まさか魚とは…。予想しにくい魔法じゃ…!対策に遅れを取ったら、あの重い力で、流石の儂でも骨が折れる。
なんとしても、見つけ出さなければ…
▼目の前で魚に食われて消えてしまった塑琉奈。それに目を丸くしながらも、身構えたままに彼女の気配を探る。
けれども、シーンと静まり返った会場の中、どんなに塑琉奈の居場所を特定しようと神経張り巡らしても、
まるでプツンと心臓の音が止まったかのように魔力の気配、彼女の自身の気配までもが、消えてしまった。
《急に塑琉奈くんの魔力が消えたスねぇ…》
《何処かに潜伏、してるのでしょうか?》
《でも気配も全然感じなくなっちゃったわよ?》
それを見ていた司会者席からも、塑琉奈の行動が分からずに首を傾げる。
それを聞いて観客からは、未だに姿見えない塑琉奈に対しての期待ではなく、痺れを切らした野次が飛び交った。
「ジュラに勝てねぇから逃げたんじゃないのかー!?」「この臆病者、姿出せよ!」「さっさと戦えー!」っと始めと同じ、馬鹿にしたような、苛立ちを露にした罵声が溢れ出す。
▼「おいおい、これ、マジで塑琉奈逃げちまったんじゃねぇか…?」
「なわけないよ、だってお母さんだよ…?」
その野次を耳にして、会場にいない塑琉奈に対して、流石のマカオから疑念の混じった声が漏れる。
それを否定して、リサーナが声を上げ「ね、マスター!」っとマカロフの顔を覗くと、彼からは考えたような表情が垣間見えた
「…そろそろですかね」
「…やはり初代もそう思いますか」
「え?」
「なんだよ二人して、勿体振らず言えよ!」
そうして、手に顎を添えるマカロフ、にこり、と楽しそうに笑うメイビスの二人がふと、空を見やり、意味ありげな言葉を吐く
そんな二人を見てロメオやリサーナを始めに、皆が首を傾げた。
▼「…少しこの場から離れるぞ」
「え?」
「あん?なんでだよ?」
ラクサスから突然発せられた言葉。それを耳にして二人は彼の顔を一斉に見やる。けれども、ラクサスの表情からは何を思ってそう言ったのか分からなくて。
離れたら見えねぇーだろが、とラクサスに対しての文句垂れるガジルに、彼は小さなため息を溢す
「瓦礫に当たって気絶しても知らねぇぞ」
そうして、理由も言わずにミラの肩を掴み、彼女を連れたままにラクサスは会場が見える場所から少し離れて行く。
ガジルはというと、言うこと聞かずに会場が見える場所から動かずに「けっ!」っと舌打ちを溢した。
「何かあるの?」
「…見りゃ分かる」
▼各々、塑琉奈がいないのに思考を張り巡らし、口を漏らす中。観客からの野次を無視して、ジュラは耳を澄ます。
そして、その中で、やっと塑琉奈の魔力と、彼女の小さな息遣いを掴んだ。
「…そこか!!!」
ジュラが声を張り上げ、上空を見上げた瞬間だった。
晴れ渡る青空と、眩しくもてらてらを顔を出している太陽。いや、ジュラが見たのはそれではない。
正確にはその中、ゴウゴウと風を纏いながらゆっくりと此方を落ちていく、雲隠れしていた、塑琉奈の姿。
《塑琉奈ちゃあああん!?!?!?あぶ、あぶあぶ、危ないよぉおお!?!?死んじゃうよそれぇえ!?!?!》
《ちょっと、アンタ落ち着きなスて》
《何をする気なの…!?》
ジュラに釣られて観客とギルドの面々、司会者席からはあんぐりっとその光景に口を開けた
その塑琉奈の腕には先程の鉄扇はなく、代わりに紐を揺らすミルクスタンプがあった。
▼「ホワイト…アウト……」
ゴウゴウ、落下していくにつれて凄まじい追い風が彼女の体を包み込む。その風の強さを諸ともせずに、塑琉奈はスゥーッと息を吐いた。
同時、キィインっとミルクスタンプに掛かっていた二つのリングがどんどんと巨大化していき、その大きさは会場を囲ってしまうのではと思うほど。
ぐるん、ぐるん、巨大化していくリングが交差してからジュラ目掛けて、塑琉奈と一緒に落ちていく。
「(これを食らったら…ひとたまりもない…!)」
ジュラは自分目掛けて、勢い強くやってくる巨大化したリングとその上にいる塑琉奈を見て、流石にたらり、と冷や汗を額から一筋垂らした。
そして、自分の脳から直接出してくる「当たったら死ぬ」という、確信の危険信号に、「ぬぅん…っ!!!」っと、ジュラは一目散に両手を合わせ。
「ツイン、ブレイク!!!!!」
「巌山!!!!!!!」
そして、ジュラの防御魔法、巌山と、塑琉奈の攻撃魔法、ホワイトアウトツインブレイクがぶつかった瞬間、
まるで大きな地震が起きたかのような、激しい揺れとズドォオンっという壮大な破壊音、そして轟き谺する衝撃波が会場を襲った。
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