▼はぁーっと、静かに呼吸音と、胸を上下させる動作だけが二人の間に繰り返される。その間にも互いが掴んだ手や腕を押そうと、ギリギリ、メキメキ、と力をぶつけ合う。
だがそれも終わりを迎える。
「…ふっ!」
「むう!はぁ…!」
それを破ったのは塑琉奈からだった。バチィッとジュラの手を払い退け、直ぐ様しゃがんで足払い。それをピョンッと飛び避けるジュラ。
それでも構わず一瞬の空中を無駄にしないと、今度はグイッと上体を上げて、塑琉奈は足をそのまま彼の顎目掛けて狙う。
その間にも飛び交うトライデントを最小限の動きで避けながら、その足をガシッと掴かみ、ジュラはグイッと彼女を投げ飛ばした。
「んぎゃっ?!」
ジュラに投げられ、宙を浮く塑琉奈。彼もそれを見逃さずに、ババッと手をかざしては、石柱をどんどんと塑琉奈へ向かわせる。
それをさせない、と言うようにトライデントがその石柱を壊し、ジュラの攻撃を許さない。
そして、ギュルンと塑琉奈の方へ走る大きなトライデントが彼女と並んだと同時に、塑琉奈はそのトライデントに飛び乗った。
「…厄介なもんじゃ…」
カッ、カッ、カッ、と幾度か屈折し、塑琉奈を乗せながらうねるトライデント。そして、自分を未だに攻撃してくるそれに翻弄されつつも、ジュラは苦笑いを溢した
▼《凄い攻防戦ですね…、手と汗を握る緊張感が此方にも伝わってきます…!》
トライデントに乗り、縦横無尽に駆け巡る塑琉奈。それを目で追いながらチャパティは目をかっ開き、口を開く。
ジェニーも塑琉奈を見据えながらに、首を傾げながらヤジマさんへ声掛けた。
《塑琉奈ちゃんは“換装”の魔法を使うのかしら?武器使ってるし…》
《うーむ…、それとはまた違うようにも見えるね…》
《…と言いますと?》
ほら、あの矢印はどう見ても武器ではないデショ、と逆にヤジマさんはトライデントを次々と割っていくジュラを指差した。
それにチャパティとジェニーを始めに、会場にいた観客たちとそれをはじめから見ていた他のチームたちも、首を傾げた。
▼くそ…、結局一発しか当てられなかった……!直ぐ足を掴まれるなんて…不覚。これじゃラクサスに「修行してねぇじゃねぇか」っとどやされちまう…。
「(また離されたけど…)」
会場の周りをぐるんっ、ぐるんっと、円を描くように動くトライデントの上。
バリンバリンと他の全てのトライデントはジュラに破壊をされて、残りは自分の乗っているこれだけ。
塑琉奈はそれを理解してから、チッと舌打ちを溢す。そして攻撃のために閉じていた光神姫をバサッ開き、その鉄扇を扇ぐ。
すると風と共にたちまち鉄扇先から次々と光の刃が、ビュンビュンビュンっと、ジュラの元へ飛び交っていく。
▼「む…!?」
ジュラは全てのトライデントを壊し、ふぅっと一度一息を付く。そして自分の上空を動く塑琉奈を見上げる。
するとそこからは今度は光の刃が自分の上空へ落ちていくのに、「またか」っと不意にごちる。
そしてふんっ!と彼が光の刃を、トライデントと同じように拳と掌で割ろうと手を差し出した時だった。
拳が光刃に触れた瞬間、ビッと自分の拳が鋭利な物に切られたかのように皮膚が裂ける。
「(何…!?)」
自分が油断をしていた訳ではない。そして自分を傲っていた訳ではない。先程、塑琉奈の強さを分かっていたから尚更だ。
それでも、ブシュッと自分の拳から溢れ出る血を目の当たりにして、ジュラは一瞬にして「(こりゃ、たまげたわい…!)」っとジュラは直ぐに、もう片方の手で印を結ぶ。
「岩鉄壁!!!」
そうしてドオンッと、ジュラの目の前に巨大な煉瓦の積み重ねられたような壁が出現し、次々と振り掛かる光の刃をそれで防いだ。
それでも初めは、理解をするよりも先にやってきて防せぎ切れなかった光の刃がビビッ、ジュラの衣服に破き、所々切り刻んでいた。
▼そう、光神姫に注がれた魔力はトライデントとは違い、段違いに高く、そしてその分、塑琉奈の魔力は消費している。
それから放たれた光の刃も勿論に硬度を誇っていた。
だが、塑琉奈の魔法、そしてその構造を未だに理解していなかったジュラには仕方のないことである。
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