▼塑琉奈のその攻撃と共に、先程まで溢れ出ていた光は徐々に消えて、周りにはやっと視界がはっきりするほどに戻っていく。
だがその頃には、衝撃で巻き上がる風圧と、うねりを上げて広がる砂ぼこり。今度はそれに気を取られてしまう
《おおっとぉー!?眩しさに気を取られている内に、いつの間にか攻撃をしていた塑琉奈選手!!ジュラの姿がまだ見えません!》
《凄まじいねぇ…、何も見えなかったけど》
《もう!紫外線はお肌の敵なんだからね!やめてよねもー!》
《そういう問題じゃないでしョ》
そして、その眩しさに気を取られた会場からは、未だに風圧と砂ぼこりに目を細めるつつに何が起きたか分からずにざわざわと騒ぎ出す観客たち。
「なに、今の音!?」「ジュラが攻撃された?」「すげぇ音だったぞ!?」っと彼らからは漏れる。
▼「…うっ、お!?」
だが、それも束の間。
砂ぼこり立ち込めて姿見えぬジュラに対して、塑琉奈が身動き一つしていなければ、不意にガコンッと自分の視界が揺れるのを察知する。
そう、それは塑琉奈のいた場所の地面が、石柱となって彼女ごと上がっていっていたのだ。
「やってくれたのう…!塑琉奈殿…!」
彼女を石柱ごと空に突き上げながら、はぁ…っと小さな息遣いと共に、ジュラが手を掲げたまま、晴れた砂ぼこりから姿を現す。
その彼の衣服…、袴には小さな傷が点々と残り、砂ぼこりのせいか少しだけ汚れていて…。それを確認した塑琉奈からは、ニッと笑みが溢れた。
▼「…やっとアンタの服、汚してやったぜ!」
嬉しくそう言いながら、予想していたのだろう、トライデント!と塑琉奈は叫ぶ。
すると始めと同じよう、地面からズバズバとまた光の疎らな矢が顔を出しては、ぐるんっと塑琉奈を乗せた石柱を破壊させる。
同時に、他の無数の矢たちはジュラに襲い掛かり牽制を図れば、それを彼は石柱と、己の張り手で次々とバリン、バリンを割っていった。
「…こっちだ化けもん!」
「う、ぐ…!?」
だがその中で、いつの間にか接近していたのだろう、ジュラの背後で塑琉奈がまたニカッと笑った。
しまった、彼がそう思ったと同時、ズバァッと鉄扇の斬撃が彼の背中に走った。
▼ズウンッと背中を通じ、重い轟くろうな痛みが、波紋のように身体中に伝わっていく。
同時に、ビリビリと肌を裂いてしまうのではないかと言わんばかりの、彼女からの魔力と心力。それが至近距離にいることにより、直に肌で理解した。
まさか…!これ程の者が…まだ妖精の尻尾に隠れていたとは……!
ギリッと彼女から与えられた痛み、そしてあまりにも予想外な塑琉奈の強さをやっと理解し、ジュラは歯を食い縛る。
そして、直ぐ様視界を反転させて、次に繰り出されるだろう塑琉奈からの振り翳された鉄扇を持った左手と右腕。ジュラはそれをすかさず受け止めた。
同時に、パァンッと言うような、肌と肌がぶつかる音が会場内に響き渡った。
▼《なな、なんて戦いなんでしょうか…!あの聖十のジュラに一歩も引かない塑琉奈選手…!いや塑琉奈ちゃん!すごいぞ塑琉奈ちゃん!》
《塑琉奈ちゃんってアンタ…》
あまりの攻防戦に、冷や汗を滴ながらも興奮鳴り止まぬチャパティ。
その彼の言葉に《わたスは知らんからね》っと意味ありげにそう呟き、ため息をついた。
▼塑琉奈の鉄扇を持った右腕は、ジュラのみぞおちを肘で打とうとして、彼の掌に止められる。
左手は手首を掴まれ、ぐぐっとジュラと塑琉奈の力が均等し、力を込めているのか、互いに首筋に青筋が立っていく。
そうして、二人は至近距離状態。
「今度はアンタの羽織…脱がすよ…!」
「そいつは楽しみじゃのう…!」
そして塑琉奈の瞳にはジュラが、ジュラの瞳には塑琉奈が、互いが互いを鋭い眼孔で睨み合う。
怪我はなく、まだ無傷の彼女がニンマリと笑い、ジュラへ声を掛ける。それに答えるように、ジュラも不敵に口を横に裂けていく。
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