▼「うぉお…痛そうだぜありゃ…」

「…無理もない。あの水天魔鏡のものを跳ね返されたんだ。」


相当痛いだろうな、とエルザが試合を見据えながらそう答えたのに、試合に釘付けなナツが「何でだよ?」っとエルザに疑問を投げ掛ける。

それにエルフマンも同じ気持ちだったのか、エルザの方へ視線を合わせた。


▼「ナツは覚えてないだろうが、ハデス戦の、あの鏡を出す際に母さんが言っていたのだ」


『その鏡は、あらゆるものを吸収し、増幅させて、術者に跳ね返す』


あの時に言った塑琉奈の言葉が、鮮明にエルザの脳内に再生されて、あの鏡についてのことだったんだろう、と本人自体も納得しながら口を動かす。


「あの鏡は、力を増幅させた形で相手に返す。だから恐らく…塑琉奈はジュラ自身が出したその数倍の力を受けたんだ」

「…成る程な、しかも自分の力をモロに受けたってことかよ」

「えっ、はぁ?なな、何を言ってんだ?いまいちよくわかんねーぞ!?」


エルザが説明するのに、顎に手を当てながら納得するエルフマン。その傍らで、訳わかんねぇっと言わんばかりに頭を抱えるナツに二人は苦笑いを溢した。

そして「エルフマンが言ったことで覚えろ」っとエルザはナツの頭を乱暴に撫でた。


▼「…それって、大丈夫なの?」


その間、ミラとガジルも、エルフマン、ナツと同じようにラクサスから説明を受けていて。ミラが心配そうに塑琉奈を見やる。


「ああ、頑丈なのが取り柄だからな。」

「元気じゃなきゃあんなに叫んじゃねーだろ、ギヒヒ」


ガジルの言葉にその通り、と口では言わずに頷くラクサス。そして、彼もミラと同じように塑琉奈を見やる。


「自分の魔法で負けるような、ヤワな奴じゃねぇよ」


そして、ポツリとそう呟いたラクサスに、聞こえないフリをしながら「あらあら」「…ギヒ」っと、ミラとガジルを顔を見合わせて、小さく笑った。


▼なんとか痛みを持ちこたえながら、四つん這いになりつつ、地面に全ての指を突き刺して塑琉奈は殴られた勢いを殺す。

同時に彼女の周りにはズササァという音が纏う

そして、その体勢の彼女の回りには、殴られた勢いのせいで立ち込めた砂ぼこりが、風と共に、横に伸びて揺らいでいった。


《強い!やはり聖十の称号は伊達じゃなーーーい!塑琉奈選手、こんな化け物に勝てるのかーーーー!?》

「うおお…いてぇ…。水天魔鏡だとこんな威力跳ね上がんのかよ…」


彼女から漏れた焦りの声、それはジュラ自身ではなく、自分の魔法に対しての「やっちまった」という反省だった。


▼「(さて…どうする…?)」


流石聖十大魔道の一人、と言ったとこか…、洞察力と切り返しが速い。俺の動きに合わせて、対策も直ぐに練ってきやがるし、何より…隙がない。

…最小限の絵描入門じゃ歯が立たないか…。


「(ゆとりのある袴着てるくせに、全然汚れてねぇし。)」


サアッと風に靡き、揺れる彼の着物。その衣装から汚れが見えないのに、ムスッと塑琉奈は思わず頬を膨らませた。


▼彼をジッと見据えながら、塑琉奈はゆっくり立ち上がる。パンパン、と自分の服に付いた砂を払うそんな彼女の様子に、ジュラからは「ほう…」っと感心したような声が漏れた。


「(まだ、主の魔法の全貌はよく分からぬが…)」


儂の攻撃に対しての迷いのない魔法、そして未だに揺るがぬ身の立ちよう。……先程から儂の魔法は避けられて、あの一発しか当てられておらぬ…。


そして、此方を見つめながらムスッと頬を膨らませる塑琉奈を見て、ジュラは不意に口元が緩んだ。


まだまだ、お主も余裕…と言ったところか。









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