▼「母ちゃんの戦いを序盤から見れるなんてなー!やったぜー」

「そんなに強いのか、母ちゃん…?」


会場の二階、司会の試合発表と共にナツが歓喜の声を上げる。それにエルフマンが首を傾げるのに、ナツは自慢げにシュッ、シュッ、と拳を突きだしてニンマリ笑う。


「そりゃあ俺たちの母ちゃんだぜ?」


それに母ちゃんの魔法、面白いんだっと付け足し、目を輝かせるナツ。そんな彼は、子供のようにワクワクとした雰囲気で食いるように会場下を見やる


「ナツがそこまで言うなら心配しなくていいかもな」

「…だが相手はあのジュラだ。塑琉奈がどこまでやれるのか…」

「そんなの!勝つに決まってんだろ!」


そしてエルザに向かって声を掛けるエルフマンに、彼女は少し眉を動かしてから小さく頷いた。

エルザの言葉に少し不服だったのかナツが此方を向き、口を尖らせる。それを目にしてからエルザは口を閉じた


塑琉奈…、決して無理は、しないでくれ…。


エルザの心奥には、自分の大切な母親の、塑琉奈の安否を心配しているのを、今は誰も知らなかった。


▼「はー……」


言い分も叫び、塑琉奈は一度深呼吸。

先程自分に対して溢れた会場の笑い声はすぐ消えて、また今度は塑琉奈に向かってのブーイングと馬鹿にした煽りの嵐。

それを静かに聞き入れ、ゆっくりと瞼を閉じた。


「(そうか…、グレイやジュビア、ルーシィは…こんな中で頑張ってくれてたんだ…)」


瞼裏の真っ暗な世界、その中で浮かぶのはこの一日目で頑張っていた子供たちの姿。

そして、そんな子供たちを邪魔をした奴等の姿と、会場の品のない悪口、顰蹙。


ああ…どろどろ、でろでろ、熱い熱い怒りが溶岩のように、体に染み渡る


▼「個人的には妖精の尻尾には頑張って欲しいとこだがのう…」


そんな中で、一番近くで聞こえた声に塑琉奈はゆっくりと瞼を開く。そこには、自分の対戦相手のジュラが立ちはだかる。


「すまぬが、手加減はせぬぞ。」

「………。」


ジュラが彼女を見据えて、そう一言を付け足す。それに一度口を閉じて、俯く塑琉奈。そして、その顔を一気に前に向けた。


大丈夫だよ、お前たちの頑張りは、皆が一番知ってる。俺が一番知ってる。だからこれ以上…


「…アンタに恨みはないけど、俺はアンタに全力で八つ当たりするよ。」


お前たちの努力を、無駄にする気はねぇよ…!


その顔には、先程の泣きじゃくる情けないものでも、子供のように駄々をこねたような、そんな面影は一切消えた、真剣そのもののだった。







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