▼予選が終わり、本選参加へ駒を進めた俺たちは、とあることをリサーナから知らされる。それは朝を迎えた少しの間があってからだった。

Aチームとして参加する筈だったウェンディ、そしてシャルルが負傷した、ということ。

それを聞かされた瞬間、一瞬にして寝室にいた俺たちの空気が張り詰めた。険しくなる皆の顔つき、軋める程にガジルが歯を擦らす。

あの時の感覚は、今でも肌がヒリヒリする程に残っている。


▼「ウェンディ…、シャルル…」


本選会場に着いてから、直ぐに医務室へと向かう。寝ているかもしれない、とゆっくりとドアノブを回し、小さく扉を開く。

するとそこには、小さな体が2つ。苦しそうに眉を時たま潜めながら瞼を閉じていた。


「塑琉奈…」

「二人の様子は?」

「まだ目を覚まさないんだ…」

「…そっか」


その前にはリサーナとハッピーがその二人の顔を心配した顔もちで覗いていて。

二人に場所を開けてもらい、間近まで来て、寝ているウェンディとシャルルを見つめる


▼起こさないように、やんわりとゆっくり彼女の頬を撫でる。

すると一度、んっ、とぴくり反応してから、先ほどまで眉間にシワが寄っていたのが薄れてきて、そこも撫でてやる。


「(いっぱいいっぱい、頑張っただろうに…)」


自分の手に擦り寄るように、ウェンディが身を捩る。少しは…安心してくれたのかな…っとそれを見て少しだけ胸を撫で下ろす。

それでもウェンディとシャルルが苦しんでいるのは抗えないもので。不意に悔しさが込み上げる。


自分がいれば、なんて傲りは言わない。それでもウェンディはウェンディなりに、この為に3ヶ月頑張ってきたのにそれを無下にされた行為。

本当に、この子たちをこんな目に逢わせた奴にジクジクとドロリと熱い怒りしか溢れてこない。


きっと今でも、体は痛いだろう…、きっと一番に君が悔しいだろう、突然のことで……凄く怖かったよね…


溢れてくる怒りという感情を抑え込むように喉をグッと鳴らし、次に小さな手を2つ握る。ウェンディとシャルルの小さな手。


▼「リサーナ…、俺がミントを出してウェンディとシャルルを…」

「そうか!それなら二人も早くに善くなるよね!?」


「…駄目だよ塑琉奈」


目頭から溢れそうな涙を塑琉奈は必死に塞き止め、静かに隣にいるリサーナに声を掛ける。手を握ったままに。

それに顔を明るくするハッピーとは裏腹に、リサーナが凛としたハッキリとした声で制止させた。


「塑琉奈は大魔闘演武に集中して。……ウェンディとシャルルのためにも…」

「えっ」


続くリサーナの言葉に、塑琉奈はグッと口を結び、握る手を少しだけ震わせる。けれど逆にそれを聞いていたハッピーが面を食らって塑琉奈とリサーナを二度見。


「どどどういうことリサーナ?オイラ初耳だよ!?」

「…ハッピー」


同時に状況がよく判らず慌てた様子で手を右往左往させるハッピー。塑琉奈はそんな彼の頭をポスンッと撫でた。

そして「まだナツたちには内緒な?」っと先ほどとは打って変わって、彼女はお茶目っ気に柔く笑った。








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