▼正直言うと、時間や待たされたという事実はあんまり気にしてねぇ。長年幼馴染みやってんだ、そんな小さい事気にしてたら埒があかねぇ。
それが塑琉奈だったら尚更だ。
…ただ、気になるとすれば…何もなかったかどうか。
コイツが素直に言うタマでもねぇ、隠し事なんかザラだ。最早それが塑琉奈の悪い癖とも言うべきか…。
それが気になって仕方ねぇ。
▼「(あー、くそ…)」
塑琉奈のことになると、つい心配性になって頭の中で悶々と考えちまう。
コイツがそんな、か弱い奴なんかじゃねぇのに。むしろメスゴリラにここまでなる自分が正直、気持ち悪いと思う。
▼そう自分に舌打ちを溢しながら、ガシガシ軽く頭を掻き、目の前で肩を竦めている彼女を見下ろす。
すると、ふと、塑琉奈の右手の指が赤く腫れているのが目に入った。
「(…この馬鹿が)」
昨日の今日でまだ病み上がりだって言うのに、もう怪我してやがる。何をしたかは知らねぇが…本当にコイツは、世話焼かせやがって。
▼「さっさとシャワー浴びてこい」
「ん?お、おう?」
今度は頭を掴まずに、手のひらを乗せる。そしてため息混じりに吐息を吐いて、仕方なくわしゃわしゃと塑琉奈の頭を撫でてやる。
すると、彼女は不意にポカンっとした間抜けな顔で俺を見上げた。
「…なにも言わねぇの?」
「あん?言って欲しいのか?」
何も聞かない俺の行動が予想外だったらしく、塑琉奈からの問い掛け。それに俺はニタァと笑って逆に聞き返してやる。
「…ありがとう」
すると、塑琉奈が目をそらし、少し照れた様子で小さく呟いたのに、今度は俺が面食らう。ああくそ、反則だそういうのは。
▼「先に寝てていいぞ?」
「いいからさっさと行け」
バタバタと忙しない足取りで、塑琉奈がバスルームへと向かっていくのを、俺はじっと見つめてやる。
そしてバスルームから、水の出る音が聞こえたと同時に、俺はテーブルの上にあった救急箱を手に、自分のベットに腰掛ける。
▼「…そういや、初めてだな。」
俺が塑琉奈を手当てしてやるの。昔からいつも手当てしてもらってる側だったな。
そうふと昔を思い出しながら、救急箱を開ければ、鼻にツンっとくるアルコールの、消毒液の匂いがやってくる。俺にとっては懐かしい匂いだ。
「(何があればすぐ言え、とは言わねぇ)」
昔、塑琉奈に優しく手当てされながら、笑われたことが、ふわり、頭の中を掠める。そしてその時に言われた『こっちは心配するんだよ』という言葉が、脳内にこだまする。
「…俺だって同じだ」
今、塑琉奈にそう思ってんだぞ。と内に零しながら、俺は、救急箱の中にある包帯を手に取り、軽く口付けを落とした。
気休め程度のまじない、だけどな。
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