▼真っ直ぐと細い指が俺を射抜いて、微動だにしない。その先にある企みを含んだ瞳が、俺の姿を反射する。


「(成る程、な)」


その瞳に自分の視線を交差させ、俺は口を閉じる。そして、彼女の発言からシンッと静まり返った空気を小さく肺に送ってから、聞こえないように奥歯を軋ませた。


▼ギルドマスターの娘…。その出で立ちと、雰囲気。慌てずに落ち着きのある態度から察するに彼女は、お偉いさんに違いないだろう。

そんな奴からの賭けだからてっきり“ギルドの主導権を握る”“自分たちの傘下に入れ”みたいな内容で来ると思ったけど、そこまで酷いことは考えてなかったみてぇだ。

さすがに闇ギルドみたいな考えがないのは、あくまで公認の魔導士ギルドだからか…。余程自分たちの力に自信があるからそんなんいらねぇ、っていうタマか。またはそこまで考えてなかったか。

推測では恐らく二番目と三番目の中間かな。


そして明確になったのは


「(…目的は始めから“俺”だったみたいだな。)」


▼「てめぇら…!何を言って…!」

「おや?賭けを承諾したのはお主だろう、桜髪の。」


ギリッと大きく歯を軋ませて、ナツの瞳が、爬虫類のものと同じ薄い円と変わる。そしてそのまま彼は拳を力強く握り締める。

想定済みと言わんばかりにミネルバはナツの態度に、見下したまま鼻に付くククッとした笑い声を漏らす。


「まんまと奴等の手に引っ掛かっちゃったよ…ナツ」

「…っぐ!勝てばいいんだよ!勝てば!」


ハッピーに耳打ちされて、たらりとナツの額に一筋の汗が垂れる。そこで、自分が踊らされたことを理解したナツは半ば自暴自棄を含んだ大きな声を発した。


▼「ナツがもうちょっと我慢してたら何とかなったのにー…」

「んぎぎ…っ!だってアイツの言い方にムカついて!!」


それとは裏腹に、「(大丈夫、かな…)」っと恐る恐る塑琉奈の方に顔を向けてみる。

ハッピーにまくし立てられて、怒られるのではないか、とあまりの恐怖に肝が冷えた気持ち。

それを胸に、視線に塑琉奈を映せば、予想外にも、何やら考えている素振りの彼女がいて


「よ、よかった…」


ナツははぁー、と胸を撫で下ろした。







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