▼「ふざけんなァアア!!!」


途端、塑琉奈の側で静かに話を聞いていたナツの怒号が辺りを響かせた。その声に、反射的に俺とハッピーはナツを直ぐ様見つめる。

そして小さく「ナツ!」っと諭そうとするも、ナツは前を見据えたまま怒を帯びた声を、更に発した。


「俺らがてめぇらに勝てねぇだと…?聞いてりゃ好き勝手に言いやがって!!!」

「ナツっ、落ち着いてよー!」

「俺たちは全部ブッ飛ばす!!!てめぇらも!!!他のギルドもだ!!!そんで優勝するんだ!!!」


懐にいるハッピーが慌てて、止めようと彼の口を塞ぐも、ナツはそれを振り払い、まるで火を吐く竜のようにギャアア!っと叫び立てる


「その賭けってやつ!!!!受けて立とうじゃねぇえか!!!!そんでお前らを絶対ブッ飛ばしてやる!!!!」


そうして、怒りに精神を侵され、冷静じゃないナツから発せられた言葉が、辺りにこだまする。

その瞬間、俺とハッピーはあちゃーっと、途端に頭を抱えた。


「ナツのバカー!!!勝手に言っちゃダメだってばー!!」

「ああー…」


ナツが、どれだけの理由でコイツラに敵意を剥き出しにする明確な理由は分からない。ただ雰囲気と出で立ちを肌で感じて、何となくというところ。

だか、人は見かけで判断しちゃダメ。それが逆に、先入観という隙に繋がるからだ。

それを肝に会話を進めていた筈なんだけど…


「(まあ、ナツがこれで黙ってるタマじゃねぇか…)」


すっかりナツを落ち着いたなって先入観を持っていた俺にも非があるなぁ…こりゃ。

全く変わってないや。とても真っ直ぐだ。


▼そんなことを露知らず、フシューっと口から湯気を出し、未だに怒りに体を熱くするナツ。

あーあ、と半ば呆れ声を漏らすハッピーも気にせず、瞳にはもう熱き炎が宿っていて。


▼彼の言葉が“承諾”を意味するものになったのを、彼自身それは分かっていた。

ただ“勝てばいい”“こんな奴等には負けねぇ”という闘争心と許せない感情だけが突っ走り、ナツを動かしたのも、また事実である


▼「そうでなくてはな」っと、待ってましたと言わんばかりほくそ笑み、ミネルバが嬉しそうに声を上げる。

そして、次に彼女が発した賭けの条件。それが言い渡された時、ナツとハッピーが目を見開いた


「もし妾たちが優勝したら、お主を我がギルドに来てもらおう」


そのミネルバが“お主”を指差していたもの。それは間違いなく“塑琉奈”に向けて発せられた条件だったのだ。






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