▼「…どういうつもりだ?」

「言ったであろう、“大魔闘演武”は年に一度のお祭りだ。それ位の余興があった方が、妾たちも主たちも競い合う上でやる気が出ると言うもの。」


ゆらりと女が、此方を向く。その表情は分りやすい疑っているもの。だがそんなものは、気にはせん。

なんとしても、この者が欲しい。妾の側に置けば、剣咬の虎を“最強”に導くには同左もない。それ位の逸材。


「(そして行く末は…)」


父上を亡きものにするに必要不可欠。妾を忌ましものにした、この憎き父上を。

だが、誤算があるとすれば


▼「…悪いが、俺たちはそんなのに付き合ってる暇はないよ。他を当たってくれないか?」


この“塑琉奈”という者。随分と頭が切れる。プライドなどというものに縛られない柔軟性を重ね合わせている。先程の謝罪がそれを物語っておる。

その上、あの暴れていた桜髪がここまで大人しくなった様子を見ると、どうやら慕われている部類の人のようだ。


▼「なんだ、随分と情けない言葉だな。ただの余興というのに、賭けが出来ぬほど余裕が無いのかのう?」

「そう思うならそう思って構わない。それに、賭けを承諾させるほどの権利は俺にはないしな。」

「ふふ、あれだけの力を駆使しながら、お主にその権利がないと?面白いことを言いなさるな。ならば妾たちがギルドマスターにでも話を付けてやろうか?」

「そういう話じゃないのは、貴女程の女性なら一番分かっているんじゃないのかな、お嬢さん。どれだけ賭けを持ち込みたいのか知らねぇが、俺たちにその気も、ギルドマスターに会わせる気も毛頭ないよ。」


妾との言い合いに引かず、真剣な面持ちで塑琉奈は言葉を交わす。
その中、妾の気分を害さないようにと、細心の注意の払った彼女からの“お嬢さん”呼び。

その言葉は、少なくとも棘のない柔らかな言い持ちだった。だが逆に、それが妾の気分を高揚とさせる。


▼やはり一筋縄では行かぬか。

滲み出る彼女からの“拒否”の姿勢。それは全く揺るぎなく。

…確かに、主だけならこの話、直ぐに白紙にする発言をすると思っておったぞ…。


「妾たちに勝てぬから、断ると言うのか?」


だが、隣の桜髪はこの言葉を聞いてどう思うかのう?






back

×