▼先程の塑琉奈さんの行動、それに俺は絶望を胸に落としていた。

あんなにも『仲間のため』にジュラと、身を滅ぼしながらも立ち上がり、あそこまで戦った奴が、こうも簡単に、お嬢に頭を下げてやがる。

その昨日の試合が嘘だったみたいな、あっけらかんとした謝罪。


「(アンタにプライドは無いのかよ…!)」


サラサラ、黒髪が頭を垂れる。その姿にナツさんと同じように、俺もつい歯を軋ませた。


▼なんで、そんなことしちまうんだ?曲がりなにもアンタは妖精の尻尾の一員だろ?それが…おいそれと簡単に頭下げていいのかよ…!

煮え切らない思いがブクブクと泡立って俺の胸の中でせり上がってくる。


俺の知ってる妖精の尻尾は…こんなんじゃねぇ…!


▼そう。先程までその思いで一色だった俺の胸の中。

けれどその煮え切らない泡たちは、次には襲い掛る重くのし掛かってきた魔力にぱちん、ぱちんと割れていく。

その全てが重力で支配されたような、視界に映る世界で、静かに口を開いた塑琉奈さん。その言葉に俺は目を丸くした。


「(“仲間のため”に頭を下げた…のか…!?)」


▼「こ、れは…」


ゴゴゴ、と耳を押さえたくなるような轟音。肩にのし掛かる強い重み。それが自分達とその周りに襲い掛かる。

その中、轟音と重低音と共に響いた塑琉奈の声。それにミネルバはたらりと冷や汗を一筋垂らした。


▼「(本当に…こんな者が、妖精の尻尾におったとは。)」


先程の利口な姿など皆無。この者から放たれた広範囲な魔力の上昇。妾たちに容赦なく向けられているこの重み、肌が裂けてしまいそうな痛み。

途方のない、魔力…。なんて、素敵な…力だ…


目の前、魔力を上昇させた張本人である女と目が合う。その目には純粋なる殺意が込められていて。

その恐ろしくも静かな瞳に妾は思わず口元が緩んだ。


「(欲しい…、この者が欲しい…!)」


さすれば剣咬の虎は、妾は、誰にも辿り着ける【最強】になれる。







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