▼「ったく、何が起きてんだよ!」


先程見えた煙の姿。それを目にした時、何故だか引っ張られるかのように、塑琉奈の体が動いた。隣にいたミントを使い、直ぐ様その煙の正体へ移動を急ぐ。


まさか、ナツとかグレイが喧嘩してないだろうな…!?


そう内に溢してから、小さく舌打ちをしてから、ギリッと歯を軋ませた。


▼…いや待て。俺は酒場の目の前にいた。ナツやグレイが喧嘩するならその場か、またはあいつらの宿くらいだ。

その割には…向こうは遠すぎる。


▼頭を一気に回転させ、時刻と自分のいた場所。そしてナツたちが泊まる宿を頭に張り巡らせる。

そして、それが何れにも当てはまらないと分かった瞬間、ああー、と塑琉奈は唸り声を上げた。


「(とにかくアイツラじゃ有りませんように!)」


▼マグノリアの倍はあるクロッカス。それを走り抜けるだけでは流石に時間が掛かる。

だが、ミントを駆使して煙の正体へ向かえば、それはものの数分でその場所へ塑琉奈は辿り着いた。

「よっ…」


直ぐ様開いたミントの口から体を出して外へ出てみる。すると直ぐに鼻を掠めたのは物が燃えたような匂いと、喉を噎せさせるほどの煙。

なんだこりゃ、と反射的に鼻と口を手で覆う。そして建物にある看板が目に入った時だった。


「っハッピー!?」


看板と一緒に目に入ったのは、縛られたハッピーと見たことない黒髪の女性の背。

それを見て、目を丸くしてから思わず声を張り上げる。その瞬間だった、その背とハッピーの姿が一瞬にして目の前で姿を消したのは…


「…くそっ!」


素早く追い掛けようと走り抜けるも、もうそこには二つの姿は無くて。塑琉奈は一気に顔を歪ませた。

なんでハッピーを…


ハッピーが捉えられた理由が分からず、建物から漏れ出す煙たさと消炎も気にせずに険しい顔付きのまま。

その塑琉奈の隣、壁に掛かってある看板が次に目に入った。


【当ホテル“クロッカスガーデン”は只今魔導士ギルド“剣咬の虎”様が貸し切っております。お泊まりの際は、他のホテルへの案内を行っております。】


「剣咬の、虎…?」






back

×