▼ウルティアと別れ、くあっと小さく欠伸を漏らす。


「んー…ねむ」


そして頭の中、ラクサスを思い浮かべ「いつまでも待たせるものあれだな」っと俺もやっと酒場までの帰路へ足を進める。

明日は俺が出ようか、なんて競技のことをぼうっと思い、暗くも月明かりで綺麗な街道に目を移す


「あっ!ねぇねぇそこの人ー!」


するとそこに、少し高い明るい声が掛かった。


▼少し高いそれにビクッと反射的に肩が震え、直ぐ様声の方へ視線を向ける。すると、視界に捉えたのは、フードを被り長いローブを掛けた姿が。


「にゃにゃ、あれだよね。えっと…塑琉奈!ちゃん!」

「お、おう?」


その姿がパタパタと此方に向かってくるのに、歩を止めて待ってやる。すると目の前まで来て、その子は嬉しそうに俺を指差した。

「ちゃん」呼びが予想外にもむず痒いくて、思わず肩を竦める。けれど彼女は気にしない様子で


「ねぇエルちゃん知らない?私話したいことがいっぱいあって…!」

「エルちゃん?」

「ああ!えっと、エルちゃ…エルザだよ」


彼女の呼び方に首を傾げれば、慌てて訂正して呼び直す。

エルちゃんって単語聞き覚えがないから、ついつい間抜けな顔しちまった…。エルフマンの略だったらどうしようかと思ったぜ。


▼「エルザなら…」


期待している目の前の女の子を前、うーん、と考えるように少しだけ頭を上に向ける。

先程ウルティアと話していた通り、まだジェラールと話してるかな?それが終わって帰り途中なら良いんだが…。

もしジェラールとまだお話中なら目撃したら危ないことになるし、二人の雰囲気を壊すわけにはいかねぇしな…。


▼「悪い、どこにいるかは俺にはわかんねぇや」

「そっかぁ…」

「ごめんな、役に立てなくて」


申し訳ないと頭を掻き、苦笑いを溢す。そして少し頭を垂らせば、「ううん!大丈夫!」っとブンブン首を横に振る彼女。


▼フード越しではちゃんとした表情は見えずとも、口元が綻んでいるのが分かり、それに俺も口元を緩ませる。


「エルザとは知り合いか?」

「うん!エルちゃんとはね、昔からの大親友だよー!」


エルザの話を振れば、その口元は更に広がり、まるでパアッとでもいう笑顔をしているんだろうか、その表情のまま、両手を広げる彼女に「そりゃ初耳だー」っと笑ってやる


エルザの過去の話はいまいちよく分かっていない。強いて言うなら、ウルティア、ジェラールから聞いた話しか聞いてないから受け売りのみ。

それでも、そんな過去を背負っていたエルザの大切な一人をこう見れたことは、何より幸運なことだ。


「…エルザなら酒場にはいないよ。ここらへん探してみれば会えるかもな」

「にゃ!?本当!?ありがとう塑琉奈ちゃん!」


ついそれが嬉しくてポロリ、とヒントを溢しちゃう俺。やっちまった…と内心頭を抱える。

それでも、目の前の彼女はそれを聞いて嬉しそうに声を上げるのに、未だに「ちゃん」呼びに慣れなくてちょっぴり照れる


「ありがとう!また明日ね!」

「おーう!」


そうして、直ぐ様バタバタと忙しなくマントを揺らしながら走るその女の子の姿を目で追い掛ける。

そのまま、姿が見えなくなるまで俺はその彼女の背を見送った。


「さーて、さっさと戻るか」


あいつ、見掛けによらず心配性だからな。






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