▼緩やかに流れる川の音。それと共に、塑琉奈の心地のよい声が耳にすうっと入っていく。


「そしたらアイツ、寝ている俺を突き落として…」

「あはは、余程信頼されてるのね」

「信頼のレベルじゃないだろー!」


ただの世間話やら身内話をしているだけなのに、何故だか彼女と話していると自分の重荷が少しづつ軽くなる感覚があった。

私が貰えずにいた温かいそれ。今は目の前にあって与えられることに、不覚にも喜びが溢れた


▼「(もっと早くに貴女に会えればよかった)」


そうすれば、あんなに人を殺すことも、苦しめることも、憎むこともなかったかも知れない。正直、グレイが羨ましくさえ感じてしまう。


「ウルティア?」

「っ何でもないわ。」


ぼうっと頭の中でふと過去に振り返り、複雑な気持ちとなって内に落ちる。けれどそれは塑琉奈の声で我に返る

ふるふる、と小さく頭を振り、私はゆっくりと立ち上がる。


「そろそろ行くわ。あんまり長話してたら人のこと言えなくなるもの」

「ん?おー、分かった」


バサッとマントを揺らし、私はゆっくりとそのまま歩き出す。同時に先ほどまで自分の周りにあった温かい空気が、徐々に薄れていく。

それは私が塑琉奈から離れていっているから。


▼そうだ。この温かい微睡みの中にいつまでも私は入れない。私にはしてしまった責任が、重荷が、覆れない悪夢をしてしまった、出来事が幾分もある。

どんなに、私が求めていた温かさがそこにあっても、これを…忘れちゃいけない。

私には、もう


「ウルティア」


遠ざかっていく自身の体。もう温かさは消えて、気丈に振る舞えと脳が信号を出す。その信号を遮断するかのように、塑琉奈の声が背に掛かった。


「いつでも会いにおいで」


振り返れば、そこには離れた場所にいるというのに、未だに溢れ出す温かみそのままに微笑んでる塑琉奈の姿。

同時に、自分の髪を靡かせるほどの風が吹く。それはまるで、塑琉奈の意志が持ったような、温かい風で。


「…ええ」


にっこりと微笑んでる塑琉奈。その笑みが私に向けられている。それに、ふと体がじわりと熱くなった。


まるで、全てお見通しって感じね…。


そんな塑琉奈に、私はバレないように小さく笑いながら、私は彼女に貰った温かい風と共に、その場を後にした。






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