▼「塑琉奈」


まだ酒場まで着かぬ道すがら、不意に聞き覚えのある女性の声が耳に入る。

「ん?」っと首を傾げ、その場で足を止めると、ラクサスもその声に気付いていたのだろう、彼も一緒に周りを見回した。


「塑琉奈、こっちよ」


するとまた自分を呼ぶ声と、ひょこっと上体が住宅の隙間から顔を覗かせる。

長い黒髪と、頭に付けた白いリボン。藍色のマントを羽織ったその人物。声の正体。


「ウルティア…?」

「二日目お疲れ様。一日目はハラハラしたわよ」


そう、それは大魔闘演武前にジェラール、メルディと共にFTにやってきた、ウルティアの姿だった。


▼「誰だ」

「ああ、えっと…話せば長くなるんだが…。」

「初めまして。私はウルティア。とある理由で、今はFTに手を貸してもらいながら隠密行動をしているの」

「あん?」


ウルティアの言葉に眉をあげるラクサス。そして「何も聞いてねぇ」っとチラリと塑琉奈を見やる。すると塑琉奈は「だから話が長くなるって…」っと口ごもる。


「安心して。敵じゃないわ」

「…ならいい」

「ん?何処行くんだラクサス」


ウルティアを少しの間見つめてから、ラクサスは口を閉じる。そして直ぐに塑琉奈とウルティアから背を向けて上着を靡かせた。


「先に戻ってる」


塑琉奈の疑問に短く返し、背を向けながら手を振るラクサス。

そして「あんまり遅くなるなよ」っと塑琉奈に念を押してから、彼はゆっくりとした足取りで先を歩いていった


▼「…彼、気を使ってくれたみたいね」


徐々に小さくなっていくラクサスの背。それが見えなくなるまで二人で見送ってから、ウルティアは小さく笑った。

同時に「良い彼氏さんね」っと付け足すのに「断固として違います!!!!」っと必死に否定。

すると逆にまたウルティアに笑われてしまった。






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