▼もう空はとっぷりと夜の色。昼間とは違う、街灯や華やかな光がクロッカスの夜の街並みを彩る。
その道を、用事を終えた塑琉奈とラクサスは酒場までの帰路を歩いていた。
「あんな多い樽の数、何で運ぶか位事前に考えとけ」
「悪い悪い、いつも抱えて持ってくんだけど」
今彼らの手には酒の樽はなく、手ぶら状態。その手を後頭部につけて、あははって呑気に笑う塑琉奈にため息を漏らす。
▼実は先刻ほど、酒屋へ行ってから気付いたのだが店主が頼んだ樽の量は随分と多かった。
その量は流石のラクサスでも、力の強い塑琉奈でも体積的な意味で抱えることが困難であった。
「よし!お前が5樽で俺が10樽な!」
「あ?逆だろ。むしろてめぇは持たなくてもいいんぜ?」
「あんだとー、変な意地張りやがって!」
「張ってねぇ」
酒屋の主人を目の前にそんな可愛らしい口論の勃発。その末、結論はラクサスがふと気付いた「ミント」っという言葉だった。
▼そんなこんながあり、二人は樽をミントに乗せて、先に酒場へと向かわせる。同時に手持ちぶさたとなった二人は、用事が終わり、ゆっくりとその酒場まで歩いていた。
「別に一緒に来なくてもよかったんだぞ?」
「いいんだよ。丁度外の空気を吸いてぇと思ってたところだったからな。」
それに俺が言わなきゃ、お前ミントに気付かなかっただろ、と鼻で笑い、此方を見下ろすラクサスに「なにおう!」っと図星なのを隠し、塑琉奈は口を尖らせる
▼ふわり、柔い風が吹いてくる。それに乗ってやってきた甘い花の香りが、鼻を掠めた。
「ラクサス」
「あん?」
その甘い花の香りは今日で嗅ぐのは二回目。一回目はそう、ミラの試合の時に皆が持っていたブーケ。
俺がラクサスに追い掛け回されて、走る度に嗅いだ、甘く淡い香り。
▼ったく、このゴリラは。俺がそういうの着るタチじゃねぇって分かってるくせに、追い掛けてきやがって。
あれ、最早告白抜いてプロポーズしてるって、勘違いしちまうじゃんかよ馬鹿野郎。
「お前に俺のウェディングドレスは百年早い!」
「ハッ、ほざいてろ」
ニンマリ笑い、ラクサスに顔を向けてやる。すると、それを見てラクサスも、負けじと口を三日月に裂けさせてニンマリ笑った。
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