▼「ナナシ!!!」

「クンクン、クンクン…メェーン…」


ラクサスを目の前で攻撃されて、塑琉奈はキッとナナシを睨む。

けれどナナシはお構い無しに、ゆっくりとラクサスに近付き、匂いを嗅ごうと鼻をひくひくを動かし始めた。


「…っラクサス、大丈夫か?!」

「…来るな!」


それに塑琉奈が直ぐ様ラクサスの方へ駆け出そうとしてから、ラクサス本人から発せられた制止の声に止められる。


「ラクサス…!?」

「…逃げろ、塑琉奈…」


彼の声に、塑琉奈は足を止めるもラクサスに向かって声を上げる。それでも、ラクサスはその場を動かないままで…。

そうしてる内、ナナシの足取りはもう少しでラクサスへ。同時に二階へもうやってきた一夜化した人々がもう此方に向かってきていた


「…たまには…庇わせろよ。メスゴリラ…」


そして、ラクサスは塑琉奈に向かってフッと笑いかける。その顔にはもう、清々しさだけがあって…。

塑琉奈はそれを見た瞬間、一気に目頭が熱くなり、ぐうっと唇を噛み締める


「行けぇ!!!」

「…っう、うわぁああん!ミントぉおお!!」


ラクサスの最後の叫び声。それと同時に、くっと震える口をそのままに、身を切る思いで塑琉奈は名前を唱える。

そして、彼女の足元からミントの口が出て、彼らの口の中に入る一瞬だった。

ラクサスがナナシに匂いを嗅がれ、自分を守ってくれた彼の顔が…一瞬にして一夜の顔になってしまう。

それを溢れた涙もそのままに、塑琉奈は目に焼き付けた。


▼「うっ…うう…!」


ごぽごぽ、と水音と共に、塑琉奈はピンク色の壁が広がるミントの口の中。彼女は流れる涙もそのままに足をペタンっと座り込む。

どくん、どくんと口の中で血が脈動する動きと鼓動の音が辺りに響き渡る。

その中で「塑琉奈…」っと口の中のミントが、眉をハの字にさせて心配そうに彼女を見つめた


「ラクサス…、ナナシ…、ミラ……!」


次々と一夜の顔になってしまった大切な家族たち。そして、襲ってきたナナシを止めながら自分を必死に護ってくれたラクサス…。

それが鮮明に脳裏に鮮明に映し出され、くそっ…と流した涙を拭い、塑琉奈の口から悔しさの声が漏れる。


▼「…お前たちの死は、無駄にしないぞ…!」


そして、ぐっと拳を握り締め、彼女は悔しさそのままに、意を決して、勢いよく顔を上げる。

その表情は、徐々に真剣な顔持ちと、ビリビリと、魔力を体に纏い、戦い前の雰囲気を漂わせる

そのまま、塑琉奈はゆらりと立ち上がった


▼「(取り敢えず…生き残ってる奴らを見付けて、助けなきゃ)」

確かレビィは、ルーシィやエルザ、ウェンディたちと一緒にヤジマさんの第2店舗オープン手伝いに行ってた筈だ。

けど…確かラクサスと一緒に逃げた時にもうレビィの顔は一夜さんになってた…よな。

望みは…薄いかもしれねぇ!けど…!


「ミント…!エルザやジュビア、ルーシィたちの方へ向かってくれ!」

「うん…!了解!」


お願いだ、どうか無事でいてくれ…子供たち…!







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