かけがえのない宝物
▼自分の目の前、座り込む彼女が、それに悩んでいて、悔やんでいて、必死になって、そうまでして…俺のことを考えて、泣いてくれてる。
それが分かって、嬉しくて嬉しくて口が震えて上手く言葉が出てこない。緩む表情筋、頬に垂れる温かい雫。その感覚が現実だと…俺に教えてくれる。
「だって!どんなにシキミが、俺の魔法や魔力が苦手でも…!俺たちはこうやって話し合えるじゃねぇか…!」
「…で、も…、」
「どんなにシキミが避けても、逃げても、俺は構わねぇ!それでも、俺はシキミと一緒にいたいんだ!」
嬉しさのあまりに、上手く動かなかった口からは…ずっと君に向かって、君を見つめて吐き出したかった言葉。
それだけは、ぼろぼろ溢れ出る涙と共に、俺の口から押し出される。
戸惑い、綺麗な頬を濡らすシキミの顔を見つめて…それでも、教えられた君の理由に、俺は更に手を伸ばす。手を差し出す
▼シキミが俺のことを考えてくれて出ていったのなら、それは…君にとっても、とても苦しい選択だったんじゃねぇのかよ!?
皆温かくて、優しくて、良くしてくれたって…言ってたじゃんかよ!!!
「シキミ自身の、アンタ自身の気持ちはどうなんだよ…!?」
なら、大好きなんだろ!本当は!!
▼ぼろぼろと、溢れ出る涙のせいで揺れる視界の中でも、マスターは綺麗に映っている。
その彼の表情は、私と同じ泣きじゃくっていて…。同時に彼の私を射抜く鋭く強い声が、私の胸を一直線に撃ち抜いた
「わ、たしは…」
私の気持ち……?
▼マスターに射抜かれた胸から、じわじわ、と温かいなにかが身体に流れていく。まるで、霊気に包まれた時のように、私の傍に纏ってくれているような…それと同じ様な感覚。
いつも通りで、でもどこか懐かしくて…温かい温もりに近いもの。
同時にまた、眠る前に流れたみんなの声が、ふわりと頭の中で流れていく。
私の名前を呼んでくれるみんなの声。みんなの笑顔。みんなの優しさ…。
全部全部、マスターがくれた宝物
▼「み、んなと…マ、スター…と、一緒に、いたい…!」
震える口も歯も無視して、無意識に温かさに押されるように、私は大きな声を出す。こんなにも大きな声が出たなんて、って自分で驚くくらい。
その瞬間だった、あれっと自分の声に我に返った時。
それなら!!!っと、私の声に負けじと声を張り上げたマスターが、ニコッと眩しい笑顔を私に向ける
そうだ。私の大好きな、眩しいのに素敵な彼の笑顔。夜なのに輝くそれが、目の前にあって。