本能と感情の別次元

▼「わ、たしは……」


ガチガチと歯さえ震えぶつかるのを無視して、スティングの言葉に神経を集中させる。

そして、感じる視線の先を辿れば真っ直ぐ此方を射抜いて離さない、彼の真剣な眼差し。

それに普段は臆すること、体が震えることさえあったのに、今はそれは無くて。

それがシキミを次の言葉を紡がせる一歩となる。


「マ、スター…が、嫌い、で、す…」


そして、紡がれた言葉の先。それを聞いた途端に、ギリッとスティングの歯が軋む音がした。


「(ああ、それは…納得するしか…ねぇかな…)」


同時に、目眩が襲い、彼は頭を抱える。ガクガクと体は震え、必死に落ち着かせた心が、一気に波揺らす。

けれども、それは一瞬にして終わることとなる


▼「わ…たし、には…、マ、スター…の、魔力、が…魔、法が…、眩…しい、の…。くる、しいの…。怖、いの…。」


「……え……?」

「マ、スター…は、『白竜』だ、から…」


一気に目眩は消え、震える体も、焦って波揺らす鼓動も、スッと綺麗に消えていく。いや、正確には、唖然、として全てが抜けきったに近い。

シキミの答えが、自分の予想の斜め上、全く違う別の視点だったものに、スティングは、一気に肩を撫で下ろす。


「…シキミはさ…、俺のことは嫌いじゃないの…?俺自身のこと…」

「マ、スター…自身?」


安心したのも束の間、今度は自らが真相を見出だそうと、明確な質問をした瞬間、シキミが今度は首を傾げた。

そして、次には「嫌い、じゃ、ない…です!」っと、彼女の頑張って振り絞った、少し大きな声が、スティングの身体中を駆け巡る。

シキミは…俺の魔法が、魔力が…眩しくて…近付けなかっただけなんだ…。


『白き竜の光は、万物をも浄化する』


まさか、ここでそれが仇になってた…なんて。


▼「っはは…!」


先程まで強張っていた自分の体と心。それが重さを失ったように軽く、ふわりと、じわりと温かいものへ包まれていく。

あまりの安心感、そして嬉しさで感極まって、ぶあっとずっと我慢していた涙が一気にスティングの目頭から溢れ出る。

そして、彼の口からは柔い笑い声。


「…ごめんなシキミ。それが理由なら…俺はお前を行かせられねぇよ…!」

「…っえ…?」


もう…これからは我慢しなくていいよ。これからは…それくらいに素直でいていいんだよ…。

ああ、こんなにもシキミの言葉だけで…嬉しくて泣いちまう程に…君が好きだ…。

俺を嫌いにならないでくれて、ありがとう…。









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