分かってるから辛いんだ

▼夜なのに、肌寒さを感じない温かさ残る気温。それが風に乗ってサアッと、シキミとスティングの間をすり抜けていく。

同時に、彼女の光沢のある長い黒髪も、彼の透き通るような輝く金色の髪も、一緒に揺れた。


「っ…なんで…?」

「みな、さん…、優しく、て…温かく、て…、楽しく、て…、わ、たしに…よ、くして…くれました…」

「それならっ…「で、も…!!!!」


驚きに目に染まるスティングを目の前、シキミはそんな彼を見ること出来ずに目を背ける。そして、そんな彼女の口は震えていて。

そこから、振り絞るような…か細い声が、二人の間に流れていく。


「わ、たし…マ、スターに、だけ…酷い、ことばっかり…してるの…!わかって…るのっ!」


私が貴方を避けてしまうのも、貴方が怖いのも、貴方に近付けないのも…全部。全部。

貴方が私を誘ってくれたこと、貴方が私に優しくしてくれたこと、笑ってくれたこと、嫌いじゃないのに、好きなのに。温かくて、大好きなのに。

結局私のせいで、私が臆病なせいで…貴方を拒んでしまった。貴方を傷付けてしまった…。

それがもう…嫌なの…


「耐え、きれ…ない、の…」


震える口から綴られる、シキミの不安定で、泣きながらの声。ポロポロ、ポロポロ、その言葉に添えるように彼女の瞳からは大粒の涙が、地面に落ちていく。


▼うう、とシキミからの泣き声と、嗚咽を耳に聞き入れて、スティングは静かに口ごもる。

ギュウッと胸を締め付けられて苦しい感覚が体を襲うのに、彼は眉を潜めながらも、シキミを視線から外しはしなかった。


そうか…、そう、だよな…。
シキミが自分のしてること、分かってないわけ…ないよな。

分かっているから、苦しんでいたんだよな。ずっとずっと…苦しんでいたんだよな…。

でも、なんで…そんなに…


「…確かに、俺はどうしてシキミに避けられてんのか、全然判らんねぇ…。何か…しちまったのかなって…、あの時も怖がらせちゃちまったかな…って。」

「……」

「…けど、それ以上にシキミが、俺の前からいなくなる方が…もっと嫌なんだ…」


どんなに君に近付けなくたって、どんなに君に触れられなくたって、俺は全て嫌なんかじゃなかったよ?

理由を知らないにしろ、俺は君が俺の世界でいてくれたことが、幸せだったから


だからお願いだ。


「…そんな俺に、納得できる理由を少しだけでもいい、教えてくれよ」


君が戻らないというなら、戻らないなりの、俺をそこまで拒む理由。避ける理由。逃げる理由。聞かせてくれよ。

もしそれで、俺が納得したら俺は潔く君を諦めよう。


「(ここでさよならしたら、もう会えない気がするから…)」






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