苦心拒絶
▼「良かった…、まだ、此所にいたんだな…」
まさか、と自分で認識するよりも、反射的に向けた視線の先には、息を切らし、額に汗を流しながら膝に手を添えて胸を上下に動かし呼吸をするスティングの姿。
それが目一杯映り、同時に驚きのあまりに、シキミの瞼はいつも以上にかっ開いた。
「どう…し、て…」
「はっ…は、こっち…のセリフだよ…!」
どうして急にいなくなったりしたんだ…?っと流れる汗を拭い、呼吸を落ち着かせながら、スティングが口を開く。それは、今まで聞いたことない、自分に対して強い口調で。
シキミはそれに、きゅうっと自分の胸を握り締め、口を結ぶ。
▼「(駄目だ…落ち着け!)」
此所まで全力疾走して、呼吸は乱れ、ドクドクと心臓が忙しなく鼓動を繰り返す。その状態のまま、目の前にやっとシキミを見付けて、思わず内に溢れる焦りを色をスティングは必死に落とす。
焦って、またこの前のような過ちを…、シキミを怖がらせちゃいけない…。今度こそちゃんと、向かい合って、ちゃんと、話すんだ…!
「はぁー…!」
自分に何度も何度も、落ち着けと言い聞かせ、忙しなく鼓動する心臓を、息切れを落ち着かせるために一旦口を閉じる。
そして、深呼吸をしてから、俺は目の前の、座っているシキミを改めて見やる。
▼「帰ろうシキミ…。みんな、心配してるぞ…?」
暫くしてから、スティングの呼吸が落ち着いて、ゆっくりとたち直す。そして、静かな墓地の中で、徐に手を差し出して、透き通る彼の声がシキミに向けて放たれた。
「…っわ、たし…は」
差し伸ばされたスティングの手。眩くとも、真っ直ぐと此方に向けた、温かい手。
それを見て、不意に鮮明に過ったのは…あの時、あまりにも彼の殺意と眩しさに恐怖して、払ってしまった記憶。
自分をここまで導いてくれた人なのに、拒絶してしまった自分。
それが、シキミの心を縛る。
「戻り…ま、せん…。」
そして、シキミの口から出た答えは、同じ…拒絶だった。