真っ白に腐る果実

▼「え…?」


マスターとしてギルドに関する書類や、月の仕事数や出資金、それら諸々を頭抱えながら書き上げた紙達を封筒に積め、それを渡すべき場所へ行っていたことだ。

慌てた様子で、ローグが走りながらに俺の目の前にやってくる。

はぁはぁっと息切れもそのまま、深刻な顔をして俺に報せた内容は『シキミが行方不明』ということだった。


▼また、頭が一瞬にして真っ白になる。同時に気が遠くなる感覚に襲われて俺は思わず額に手を当てる。

ローグに報された内容に、ズキンズキンと急に頭痛が襲い、神経を磨り減らすような甲高い耳鳴りが広がって、俺の耳を支配する。


「いまルーファスや他の者も必死で彼女を探し回っている!早くしないと俺たちの届かないとこまで行ってしまう可能性が高い!」

「そん、な」


ローグの言葉も右から左へ流れていくだけ。聞き取ろうとすれば耳鳴りが邪魔をし、俺の思考を追い詰める


なんで…シキミがいなくなるんだよ…。俺は、何もしてない筈なのに。

あれから近付くことも、極力扉の前に来ることも、歩くこともやめた。そうすればきっと落ち着いて、出てきてくれると、そう思っていた。

シキミが俺を怖がるのなら、俺が離れれば、諦めれば…また彼女を見れるとそう思っていたのに…。

俺は…もうそれだけでいい、と腹を括っていたのに。

やっぱり、そんな次元じゃないとこまで来てしまった…?


▼ぐるぐる、終わりのない負の感情。それが紡ぎに紡ぎ、連鎖となってスティングの思考を縛り付ける。周りを見るどころか、両手で頭を抱え、揺れていた碧色の瞳が徐々に光を失い始める。ジュクジュク、身体中に腐っていくような感覚を捉えながらに。


「スティング!!!」

「っ、」


それから引き戻すように、半ば強引にローグの手が彼の肩を掴み、ぐいっと自分の方へ向き直させる。

それにハッと我に返って、両手はそのままに、目の前の自分を見つめるローグの瞳に、自分の目線を交わした。


「…お前は、以前シキミと初めて会った場所に行ってくれ。そこにしか、思い当たる節がない」

「け、けど、ローグ…」

「早くしろ!!!」


このままシキミがいなくなっていいのか、と鋭い眼孔で此方を睨み付け、捲し立てるローグ。


『シキミが、いなくなる?』


その瞬間、ぶあっと一気に身体中に走り抜ける電撃のような感覚。

ビリビリと小刻みに体を震わせ、代わりにそれが、先程のジュクジュクとした自分が徐々に腐っていくような感覚が取り払われる。






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