焼き爛れた境界線
▼朝となったのに、太陽は未だに顔を出さず、代わりにモワリと灰色と白の混ざる雲たちが空を覆っていた。
そんな気温も不安定な天気の下、まだ時間は早朝に近くで、誰もギルドにいない時間帯に一人、ポツリと医務室の前に立っていた。
「…っ」
それは、何度も口を動かそうとして、結ぶを繰り返し、つもなら光の入った瞳が、未だに揺れているスティングの姿だった。
▼何度この繰り返しをしただろう、「何か言った方がいい」っと頭では分かっているのに、その「何か」を言うのが渋る。
それだけで俺の緊張感は高まる。まだシキミの姿を見てないってのに…。
「(なんて、言おう…)」
只でさえ俺がシキミに『何か』をしてしまったのは事実。その『何か』は不透明で。
あの時周りを見ていなかったから?あの時曲がりなりにも人を殺そうとしていたから?なんて、分からなくて何度も自分の痛まれないとこを探しては、頭が痛くなる。
それでも理由が分からない手前、自分の言葉に細心の注意を払う。
▼そうしてドアノブに手を触れようとして、昨日シキミに叩かれた痛みが急に強くなる。じんじん、と焼かれたような火傷を負った感覚が身体中に巡った。
それはまるで、扉先にいるシキミが、俺を『拒絶』してるように捉えてしまう。
『いや、だ…!こ、ないで…!こ、ないで…!ころ、さ、ない、で…!消、さない、で…!』
なあ、シキミ…。
君は何を見てしまったんだ…。俺を通して…、何を見たの?何を怖がっているの?
それとも…
「(俺自身が、君を怖がらせているのか…?)」
▼掴もうとしたドアノブを、スティングは掴むことなく、そのまま彼の手のひらは虚空を握り締める。
「もし、そうなら…俺は、どうしたらいい…?」
このまま俺は、君に触れることも出来ず、君の笑みも見えず、ただの俺の私利私欲な夢まやかしで消えていってしまうのだろうか。
俺はこんなにもシキミのことが
「好きなのに…。」
▼まだ誰もいない早朝の、明かりもない廊下の先にある医務室の前。
スティングはその扉の前で、膝から崩れてから静かに涙を落とした。