現実が望みを押し潰す

▼何故自分がベッドの上で寝ているのか、起きたままのぼうっとした意識の中でシキミは思い出そうと試みる。

すると代わりにやってきたのは、ゴゴゴッと自分を押し潰してしまうような感覚と、凄まじい音が耳を支配する。

そして、そんな凄まじい音に支配された脳裏の中、暗闇の中でボッと火のように出てきたのは…あの時の、ドラゴンフォースを駆使したスティングの姿だった


「ひっ…!」


それが分かった瞬間、シキミは直ぐに自分の体を自らで抱き締める。一気にやってきた震えを抑えるように強く、強く。

全てを浄化してしまう光。全てを飲み込んでしまう光。全てを消し去ってしまう光。

それを目の前で焼き付けてしまった。それだけで彼女には恐怖となり…。


▼「い、や…、いや、だ…!わ、たしは…!」


そして、最後に過ったのは、自分に歩み寄ったスティングの手を払った、自分の記憶。


「…ごめん、な、さい…!ご、めん…な、さい…!ご、めんな、さい…!」


それを理解した瞬間、ガチガチと歯をぶつからせながらも、震える唇から出た言葉は、謝罪だった。


▼私は、なんて事をしてしまったのだろう…。私を心配して、あそこまでしてくれたマスターに…私は…!わ、たし…は!


「うっ…ひっ…く…!」


ぼろぼろとまた止めどなく生暖かい涙が、シキミの目から何度もこぼれ落ちる。それはギュウッと掴んでいたシーツにポタポタと疎らな円を残す


▼分かっているのに、目の前に起こった白き光。それを目に焼き付けて、身体中が大きな危険信号を鳴らし、同時に彼女の思考さえも、感情さえも…飲み込んでしまった白い恐怖。

彼女自身が分かっていても、たとえどんなに我慢しようとも、最後にはズブリと、それさえも塗り潰してしまうほどの彼女の『本能』であり『本質』。

これが『本能には抗えない事実』なのだろう


わ、たしは…、マ、スター…に、……なんて、ことを…し、て…


そして、してしまった事実と未だに胸に踞る恐怖。それを秘めた胸をギュウッと握りながら…また、シキミから止めどなく涙が溢れた


わ、たしには…や、っぱり…、貴方、には…近付け、られ、ないの…?






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