目覚めは冷気と共に

▼あの時に震えの止まらずのシキミが意識を失い、呆然としているスティングを連れてから、ギルドに帰ってきた。

クエスト依頼は達成。だがそれ以上に、俺たちと、そしてスティングの心奥には、苦味を催す、複雑で煙のように霞掛かった結果となってしまった。


「ぅ…う…ぁ…」


抱えてきた彼女を寝かせようと、ベッドに横たわらせる。瞼を閉じたその表情は、未だに少し顔を歪ませていて。口から小さな呻き声。

目の回りには隈と重なってじんわりと赤みが帯びているのが見える。


「……」

「…スティング」


それを最後まで見守る形で付いてきてたスティング。

けれども彼の口からは、何も発する事なく…、代わりに碧色の瞳がゆらゆらと落ち着きなく揺れていた。


▼ぞわぞわ、ぞくぞく、そんな吐き気を催す程の光はもうない。代わりに身体中に纏っていくのは、無数の色んな形をした手だった。

瞼の裏側は真っ黒で、本当に光を塗り潰してしまったかのように真っ黒で。

そんな世界の中、『もう大丈夫だよ』『起きてごらん』っと優しさを帯びた透き通る声たちが耳元で囁かれ、そこでシキミはゆらゆらと揺れる感覚のまま、瞼をゆっくり開いた


「……っ」


視界に広がるは、いつも寝起きの際に見るようになった見慣れた天井。そして、拾われた時の初めて見た天井でもあった。

それを見てから、シキミはゆっくりと起き上がる。ふわりと手に触れた温かくて柔らかいソレ。ソレも今では触れるのに慣れた布団で。


「…あ」


ぼうっとソレを握る自分の手を見つめてから、不意に自分の体に淡い青い光が照らされていることが分かり、反射的にそちらを見やる。

するとそこには、青白い光を照らす月が顔を出す、紺色の空が窓から顔を出していた


わ、たし…なん、で…寝、ていて…




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