痛みだけが心に残った

▼「シキミ……?」

「…う…ぁ…」


スティングの周りに発生していた白い魔力の渦、それは風と共にふわりとかき消えていく。

同時に、ローグの言葉である『シキミ』という名に、スティングは直ぐ様視線を彼女の方へ向ける。するとシキミの姿は、まるで何かを全力で怯えて恐怖しているガクガクと震えた小さな体があって…

その姿を見て「くそ…っ」と不意に下唇を噛んだ。


俺がもっと早くに助けていれば…、俺がもっと早くにアイツを倒していれば…、俺が!俺が…!!!


▼「っ、シキミ…。ご、ごめんな…?」

「ひぅ…!?」


体を丸め込み、恐怖で揺らぐ瞳には涙が溢れそうな程で。その瞳に俺は映っている。

ああ…、こんなに怯えちまって…、余程捕らわれたのが怖かったんだろう。

そして彼女を、シキミを助けたいが為に、動かしてしまった俺の激昂。そして理性を飛ばした暴挙。それが今になって懺悔になって落ちる


▼「その…、あの盗賊に頭きちまってよ…」

「…っ!」


精一杯、声のトーンを優しくして、物腰柔らかくシキミへ恐る恐る歩み寄る。けれど、逆にシキミからは、まるでおぞましいものを見るかの様に、目をかっ開き、か細い呻き声を上げた


大丈夫だよ、もう大丈夫だ。俺ももう落ち着いたから…。もうあの盗賊はいないから…。

だからお願いだ。この手を、取ってよ

そしてゆっくりと、俺は彼女に手を差し伸ばす。


▼パァンッ、乾いた弾く音がざわざわと揺らぐ木々の中、響き渡る。

それは、シキミを心配していたフロッシュとレクターの耳に、そしてスティングの隣にいたローグの耳にも入った。

同時、シキミの間近にいたスティングには、それは強烈な破裂音に変わり、一瞬にしてビリビリと電撃のように痺れた痛みが手のひらに走る。


「来、な…いで!来、な…いで!来、な…いで…!」


そしてシキミの震えた声から、押し出すように出た言葉は、俺を恐怖する『拒絶』だった


「シキミ…俺は…」

「い、や…だ!」


まるで初めて会った頃と同じ、俺が近付いた瞬間の、怯えた、怖いものでも見るような…恐怖に満ちた歪んだシキミの表情。

その彼女の瞳には、止めどなく溢れ出る涙が、ボロボロと頬に滴り落ちる。

そして、何度も何度も恐怖に揺らぐ瞳に俺を映したまま「来ないで来ないで殺さないで消さないで死にたくない」と言葉の数々が流れていく


「(そ、んな…)」


俺は彼女に叩かれた手を抑えて、怯えるシキミにどうしたらいいか分からずに、頭が真っ白になる。

そして叩かれた手は、今までの戦いで負傷したどんな怪我よりも、強烈な痛みとなって俺の胸奥に深く刻まれた






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