光、浄化、死

▼「い、いいのか!?仲間がどうなっても!?!?」


自分の頭上、震える男の声が辺りに響き渡る。けれどシキミには、それさえも耳に入らなかった。

瞳にいっぱいに映る白き浄化の光を纏ったスティング、それがゆっくりと此方に歩み寄ってくる。それに目を離せずにいた。

正確には…恐怖のあまりに目を離せなかった。


▼「…あ、ああ…ぁ…」


背筋に一気に走り抜ける悪寒。まるでそれは自分を殺さんと言わんばかりの殺意にも似ていて。

その白き恐怖は、走り抜けた後に体に纏まり、消えていくことなくシキミの体に留まった。


「い、や…だ……。」


ぞわぞわ、ぞわぞわ、虫が体の内側から何度も走っては蠢き合う、気持ちの悪い感覚。

そんな感覚に肌は一気に鳥肌に変わり、『恐怖』という形のないおぞましいものが、彼女の脳を侵していく


来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで死にたくない消えたくない殺されたくない


そんな恐怖の羅列が、スティングを目の前、白き魔力に触発されてどろどろ、どろどろとまるで血のように溢れ出る


▼恐怖に侵されたシキミの手は無意識に、自分を掴んでいた男の腕に爪を立てた。ギリギリと止めどない力と、ガリガリと力強く引っ掻いていく爪。

そのあまりの強さに、ぐうっと男は唸り声を上げ、腕の力を緩め、その腕がシキミを離した瞬間だった

それを縫い潜るように、素早い光の一閃がシキミの背、彼女の視線の端を走る


「ぐ、あ…!?」


腕の拘束から解かれ、その拍子にシキミは男の左足元に滑るように足すくむ。そして、じわり、と背に焼けるような感覚が強くなるのに反射的に振り返れば


「………」

「あ゙、あ゙…ぁ゙!」


目の前に広がっていた光景。それはシキミにとって、とても凄まじい程の白き悪夢に違いない。

自分の側で渦巻くその白く全てを浄化してまうような、眩しい魔力。

それを纏いながらに、スティングは躊躇なく男の首に手を掛けて、殺意の眼孔そのままに、彼を持ち上げていたのだから。


▼ギリギリ、ミシミシと男の首に万力の如く力が加えられていく。その力と、込み上げる苦しさ。呼吸を封じられ、ただ彼の口にはハッ、ハッ、と浅い息が漏れる。そして骨が軋む音が辺りに響いていく。

それでも、スティングの表情は微動だにせず、迫力に満ちた顔で。


「ひ、ぁ…」


その度にシキミの身体中に肌が焼けるような感覚と、焼けて襲ってくる爛れたような痛みが襲い掛かる


私もああやって…殺される…?

消される?壊される?ぐちゃぐちゃに浄化されて、跡形もなく…存在を八つ裂きされる?

死ぬ…?






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