白き竜は一線の赤を見る
▼先程の討伐で洞窟内は、瓦礫が散乱し、天井は所々穴が開いて青い空が顔を覗かせる。
スティングとローグはそれさえも構わず、瓦礫を踏み鳴らし、焦りから垂れる汗もそのままバタバタと慌てた様子で全力疾走で出口へ向かう。
「くそ…!」
俺とローグだけなら、盗賊討伐もきっと直ぐに終わっただろう。けどそれは、俺らだから。
シキミのことを信頼してないわけじゃない…。彼女の魔法を教えてもらった時、充分生身の人間にも、魔導士にも通用する魔法だって思ったさ。
…でも俺が、俺らがシキミをギルドに誘って、シキミと接するようになって…本当に彼女は、純粋で、無垢な、何も知らない女の子だって知ったんだ
それは要するに…彼女には、対人免疫が…、戦闘の経験がないことを意味する
「シキミ…!」
ああくそ…!知ってたのに!分かってたつもりだったのに…!
俺がこの仕事を選んでしまった責任…。俺とローグならいけるって勝手に決めて、シキミの仕事だってこと考えてやれなかった責任…。
マスター失格だ…!!!
ギュッと拳を力強く握り締め、ギリッと唇を噛む。そして焦りと大切な、シキミの無事を願いながら、抗えない懺悔を内に何度も溢した。
▼進んだ先、日差しの差し掛かる大きな穴。俺とローグはそれを見やり、やっとかっと息を漏らす。
「…スティング!」
「なんだよ…!?」
「必ず冷静でいろ。必ずだ!」
はあはあ、と討伐した時よりも体力を消耗し、俺とローグは息切れもそのまま。もうすぐ出る所になって、ローグが俺に向かって声を上げる。
それに「今はそれどころじゃ…」っと口に出そうとして、もう出口へと着いてしまう。
全力疾走した足に急ブレーキを掛けて、ズササッと、足の回りに砂埃を撒き散らし、明るい日差しの下。
俺たちが足を踏み入れた瞬間だった。
▼「チィ…!もう来やがったか!!」
「スティングくん…!」
「ローグぅ…!シキミが…」
目の前に広がってた光景に、俺とローグは一気に目をかっ開く。
出口のすぐそこには、怯えた様子で座り込んだフロッシュ、俺を見て顔を上げるレクター。
そして…、左側に倒れている男の傍らで、シキミが…もう一人の盗賊に首を腕に回されて、ナイフを突き立てられている姿があった。
「マ、スター…?ローグ、さ…ん…」
「勝手に喋んじゃねぇ!!!」
「…っ」
「シキミ…!」
俺たちのことに気が付いたのか、シキミは顔を上げて俺らを見やる。
そしてか細い声で名前を言うのを、男がグイッと彼女の首を引っ張り黙らせた。途端、シキミの顔が苦しそうに歪み…。ローグがそれに声を上げる。
同時に、白い絹のような肌の、その彼女の左頬に一筋の赤い線。そこから…ツウッと血が顎まで垂れた