垣間見えた感情
▼「…シキミ」
「…は、い…」
「実はな、薄々だが…分かっていたんだ。」
「お前がスティングを避けていることを…」っと静かにそう言い放ち、最後付け足したローグさんの言葉に、びくっと肩が揺れる。
ああ…、やっぱり…だ。あんな態度でいたら…むしろ分からない筈がない…。
「けれど…俺から見ていると、シキミからはスティングが嫌い、という感情が伝わらないんだ。」
「……っ」
「シキミは、スティングが嫌いではないのか?」
「、ちが…う!」
考えながら話しているのか、途切れ途切れにローグさんが口を開く。そして彼の言葉に耳を傾け口元を隠す
次には、逆に問われたローグさんの質問。それを聞いたと同時に、何故だか自分の大きな声が、耳に、脳に、響き渡った。
あ、れ…、わ、たし…こんな大きな声…出せた…の…?
▼初めて聞いたシキミの大きな声。その声は今までのそれとは違い、とても震えていて。
その大きな声につられるように、俺は反射的に彼女の方へ顔を向ければ、
いつもは、あどけない可愛らしいシキミの表情が歪み、今にも泣き出しそうな顔がそこにはあった。
▼「す、すまない…!その、泣かせるつもりじゃ…!」
「あ、あ…、ごめ、んなさ…い…!」
慌てて立ち上がり、座っているシキミに向かい合うようにしゃがんでから、何とか弁明を並べてみる。
すると逆に我に返ったのか、自分の状態を理解したシキミの方から謝罪が溢れた
「ローグ、シキミ泣かしたー!」
「ちが、違うんだフロッシュ!」
ずっとシキミの隣にいたフロッシュが俺を責めてきて、余計に焦りが募る。
その間に首を横に振り、「ローグさんは、悪く…ない、です」っと言ってくれる彼女
▼シキミを宥めるように肩に触れてみる。小刻みに震えるそれを包むようにやんわり撫でてやれば、また彼女は「ごめ、んなさ、い」っと呟きながら、すうっと息を吐いた。
「…良かった」
「…え…、」
「シキミはあんまり、自分のことを話さないだろう?」
何度か深呼吸を繰り返し、落ち着いたシキミを目の前にして、俺はついぽろり、と本音を溢す。
程見れた、彼女の泣き出しそうな顔。不意にそれが鮮明に脳裏に再生される。
初めて見れたシキミの感情、その高ぶり。それが一瞬でも見れただけで、とても嬉しくて。
「…少しでも、シキミの気持ちが知れて良かった。」
きっと、ここにスティングがいたら大喜びしてただろうな。なんせ、本当なら彼が聞きたかった言葉なのだろうから。