罪悪甘
▼「あ、あの…」っとシキミは、水の中を覗くのをやめる。
ハッ、と気付いたように彼女がバタバタと慌てた様子で、今度はちょこんっと自分の側に座り直すシキミに、ローグは首を傾げる。
先程とはうって変わって、少しの緊張を醸し出してる小さな体に、「何かしてしまったか?」っと不意に心配が過った。
「どうした?」
「あの……、わ、わたし、は…」
ローグのマントから手を離し、畏まって膝に手を添えるシキミ。その視線は下を向いたまま。
「迷惑…じゃ、ない…で、すか…?」
それにゆっくりと顔を覗こうとしたローグの耳から、彼女からのか細い声が聞こえた。
▼なんのことだろうか、彼女の言葉に俺は疑問が増えるだけ。
今までに、このシキミがきた1ヶ月。俺は彼女に対して、特に嫌悪感を抱いた覚えはない。
むしろ、歓迎会でギルドの面々が言っていた「花が増えた」という言葉を納得する位には、シキミのことを…正直、可愛らしい女の子だとは思っている。
本当に純粋で、穢れを知らない無垢な少女。この1ヶ月、俺はシキミを見て心底そう理解した。
噴水の時もそうだが、彼女はどうやら物や建物の知識が疎い。
そうして、分からない時は首を傾げて見つめてくる度、俺の胸が踊ることも…きっとシキミは分かってないのだろう。
いや…分からなくていいか。
「(思い当たる節としては…)」
考えを切り替え、そうだな…っと、彼女の問い掛けの意図を見つけ出そうと、俺は一度シキミから顔を離す。
それと同時に、「わ、たし…は、ローグさん、や、オルガさんに…甘えて、ばかり…だから…」っとシキミの振り絞った声が漏れた。
「(ああ…、やはりか…)」
その声に、俺はすうっと目を細める
▼私は……、マスターと二人きりでお話が出来ない。一緒に…いることが…出来ない。
どんなに彼のためにと、たとえ気持ちに嫌悪感が無くても、
少しでも慣れようとと努力をしては、一歩一歩彼に近づく度に、じわじわ、ジクジクと、胸の奥底から吹き上がって沸いてくる『光』に対しての恐怖。それに怯えて飲まれてしまう自分。
それは、染み付いたような、本能的な訴えと『近づけられない』という抗えない事実で。
その度に私はいつだって、ローグさんやオルガさんに引っ付いてるばかり。
マスターも、その事を私には咎めないで笑ってくれてるけど…きっと…、マスターもローグさんも…迷惑してる……。