幸せは歩いてこない
▼何回も読み終わってはまた初めから。ペラペラとページをめくり、何度も同じエンディングを目に焼き付ける。
其ほどに、この絵本には惹かれるものが沢山あった。
幽霊と女の子が一緒に冒険をする。そして最後にはその幽霊の後押しと、成仏を犠牲に幸せを手に入れた女の子のお話。
まるで、自分に似てるような気がして、それでいて、全く似ていない。そんな絵本。
「(幸せって、なん、だろう…)」
絵本の子の幸せが、王子と一緒に暮らすこと。けど、それは私には幸せと思えない。
幸せを自ら食べて、当てもなく旅を繰り返し、また、生きるために彼らを喰らう。
彼らにとっては、それが一番の幸福で、私はそれをお手伝いしている。
けれども、それも「幸せ」とは程遠い、悲しい感情しかなかった
▼「シキミ、その絵本、気に入ったのかい?」
「あ、る、ルーファス…さん…」
ぼうっ、と絵本を見つめて、自分のことと照らし合わしていた時、横から凛とした落ち着いた声が私に掛かる。
そして、そちらに振り向いた時にはルーファスさんが此方に顔を覗かせていた。
「この絵本、…少し切ないよね。…」
「そ、う…です、ね…」
ルーファスさんは少し目を伏せてから、その絵本に手を添える。
そんな彼を見つめていれば「内容はもう記憶してあるからね、」っと此方を見てやんわり、笑う彼。
「あ、の…」
「なんだい?」
「ルーファスさん…の、幸せ、って…何ですか…?」
未だに残る、絵本の女の子と王子とシーン。そして「幸せに暮らしました。」で終わる文。
それが頭に巡り、引っ掛かり、
ふと、彼に問いかける。
するとルーファスさんは、少し驚いた顔を見せた
「…少し前までは、そんなこと…考えたことなかったな」
そうだな…、と付け足し、ルーファスさんが私から顔を離して、遠くを見つめるように顔を前に向かせる。
そして、少しの間が空いてからクスクスと、綺麗な笑みを溢した。
「この騒がしいギルドの中で、本が読めること…かな。」
彼がそう言い、見る先を辿る。するとそこには、いつもと変わらない笑いの絶えない皆の姿。
そうか、ルーファスさんの幸せは…、この世界が…ある、こと…でもあるんだ…
▼私は、まだ新参者で。1週間くらいしか此処にしかいなくて…、
このギルドのこと、みんなのこと、まだまだ知らないこと、知らなきゃいけないこと、いっぱいある…。
けれども、それは嫌じゃない。
『俺たちのギルドに入らねぇか』
だって、あの言葉がきっかけで、私は…、やっと人に巡り会えたのだから。
私は、人の優しさに触れられたのだから。
…これも、初めてだ…。こんな、感情、初めて。
「わ、たしは…」
「うん?」
「これから、いっ…ぱい…幸せ、見つけ、ます…」
この出来事は、私がマスターに拾われたのは、きっと、意味があるんだ。
だから、マスターと、皆との幸せを、私の、幸せ、にしたい
「(そのため、に、は)」
私が、この恐怖を克服しなければならない。という大きな試練が待ち構えてる。
マスター…、ごめんなさい。
私は、とても臆病者で、とても小心者で、貴方に近付けないそんな変な私ですけど
「(貴方に、近付きたい、です…)」