君のことは何でも分かるんです
▼「ねぇ、スティングくん」
「んー?」
意気揚々と、気分の良い彼の後ろをトテトテと付いていく。
そして、どのクエストに行こうか目利きをしている彼に、レクターは先ほどのことを思い出しながら口を開いた
「どうしてシキミさんともっと近くでお話しないんですか?」
「えっ…」
そうして、レクターが問い掛けた質問に、スティングはピクンッと肩を揺らし、引き吊った笑みをして彼を見下ろした。
そう。レクターの疑問は先ほどの二人の状況。
彼にとっても二人の会話が深刻なわけでも、大事な内容でも無かったのは明らか。
なのに、スティングとシキミの距離は保ったまま。それが気掛かりだったのだ。
「僕、お邪魔でしたか?」っと、しゅんっと耳を垂らすレクターに、「いや!そういうんじゃねぇんだ!」っとスティングは改まってレクターに向き直り、必死に身振り手振りで否定をする。
そして、彼は頭を掻きながら、少し困ったように笑った
「俺もさ、あんまり分かってねぇんだけど…」
シキミとは、あの距離が暗黙の了解…?みたいな?っと口を濁すスティング。レクターはそれを聞いて、益々頭上に疑問が飛び交う。
▼「で、でも!オルガくんやローグくんとかは普通にシキミさんの近くで話してますよ?」
それを内に秘めたままに出来ず、言葉を続けるレクター。
彼の言っていることは事実だ。
現にシキミは、スティング以外の人達とは彼よりも近い距離で会話を交わしているのを、何度もレクターは目撃している。
だからこそ、スティングが言ったことが引っ掛かった。
「ユキノくんだって、ルーファスくんだって…」
「…あいつらはきっと、いいんだよ」
けれども、スティングから漏れた言葉は、少し憂いの帯びた優しい声だった。
そこに、羨ましさを感じさせるものは無かった。
▼「スティングく…」
「ほーら、仕事行くぞレクター」
わしゃ、と彼の手で荒く撫でられて、スティングは立ち上がり、クエスト書を手に取る。
まるで、この話はもう終わり。そう言っているようにも見えて…。
「(…納得、できません)」
レクターは彼に撫でられた頭に自分の手を添えてから、少し気に食わないと、つい顔がしかめっ面になる。
「(だったら、どうして…寂しい顔をするんですか…)」
僕が分からないわけ、ないじゃないですか。ずっとスティングくんの側にいたんですから…。
直ぐにでも君のこと、分かるんですよ?
スティングくんがシキミさんとお話した後で、凄く寂しそうな顔をしてるの、きっと君自身が分かってないんだ。
「レクター…?」
「…なんでもないです。」