今はこれだけで幸せなんだ
▼あれから、一週間が経った。シキミがギルドで寝泊まりをして、朝来れば、勿論彼女が一番にギルドにいる。
俺にとっては嬉しいことだ。
だっていち早く好きな子が見れるなんて、これ程嬉しいことはない。
ましてや、嫌われてないっとわかったら尚更。
だから最近はよく早起き出来て、レクターから「スティングくん、イキイキしてますね!」っと言われてちょっぴり照れた。
▼今日もギルドに一番乗り。今日はレクターも一緒だ。
そして、ギルドに入れば案の定、彼女は定位置になっている柱の後ろで、ちょこんっと座って本を読んでいた。
「よーっす!シキミ!」
「おはようございます!シキミさん!」
「っ!?あ、お…、おは、ようござい、ます…」
俺とレクターがそこに声を上げて挨拶すれば、一瞬戸惑いながらも、柱の後ろから顔を出してくれた彼女。それを見ただけで、俺の気分はふわりと軽くなる。
「何読んでんだ?」
「え、と…、絵本…です」
そのまま、シキミとは距離は縮めず、声を大きくしたまま話してみれば、慌てて今度は絵本を見せてくれて。
それに「面白いのか?」って聞いてみれば、シキミはこくんっと頷いた。
よっしゃ、今日も会話出来てる!
そんな軽いやり取りだけで、俺は嬉しさで声を上げまいと我慢して、代わりににへらーっと笑う
▼「(よくこの距離で聞こえますね…!流石スティングくん!)」
スティングの隣、レクターはそんな二人のやり取りを目の当たりにして、耳をピコピコと動かす。
レクターから見れば、二人の距離は数メートル。そして話掛けるスティングの声は大きいとは裏腹に、シキミの声は限り無く小さい。
レクターやフロッシュなど、動物なら聞き取れるだろうが、人間が聞き取れるかと言えば、難題な状態で。
でも、スティングはシキミとの距離を保ちながら会話する。
「(…なんで近寄らないんでしょう?)
その光景はレクターから見ても、いや、他の方がそれを見ていたとしても、間違いなく不思議な光景だった