はじめての共同作業
▼シャワーを浴びてから、シャコシャコと歯磨きをする。
洗面所の鏡に映る自分の顔は何故だか疲れたような顔で、目の下にはうっすらとクマが出来ていた。
「ん、スティングくん…おはようございます…」
「お、おはようレクター」
「今日起きるの早いですね…」
自分の顔を見てから内心「やべぇ」っと呟いていれば、レクターがまだ眠そうに目を擦りながら、俺の足元にやってくる。
そして「いつもなら大の字で寝てるのに」っと、自分よりも先に起きた俺を不思議そうに見つめる彼。
それにあはは…っと苦笑いするしかなかった
▼「なんか用事でもあるんですか…?」
「んー?」
ふあっと、欠伸を一つ溢し、そう聞いていたレクターに、「そういうわけじゃねぇけど…」っと口ごもる。
寝てないのに、何だか今は全く眠くない。そりゃシャワーと歯磨きをしたからってのもあるんだけど…
「(会いたい)」
けど、やっぱり頭に過るのは、シキミの姿だった
▼レクターには「まだ寝てろよ」って寝かし付けてきてから、朝早くから、俺はもうギルドに到着していた。
扉の取っ手を取り、押してみればガチャっと扉は難なく開いた。
もう起きて、鍵開けたのかな?っと思いながら、俺はそのままギルドの中に入ってみる。
「なんじゃこりゃ!?!」
すると、そこには昨日の歓迎会の散らかったままの食器やグラス、テーブルなどごちゃごちゃで。
しかも、そこに寝こけていた野郎共の姿は無く、代わりに頭に頭巾を着けたシキミが掃除をしている光景があった。
「あいつら…」
起きたならちょっとは片付けてからいけっての…
▼「あ、あ、あの…」
俺の声にびっくりして、シキミが気が付いたのか、俺を見て一旦萎縮したように肩を竦める。
それに俺は慌てて「ああ!いや!シキミのことじゃなくて…」っと彼女と少し遠い距離のその場で訂正をする
すると、シキミは少し視線を落として小さく呟いた
「お、はよ、う…ござ、います…」
「えっ…?」
俺はそれに思わずポカンっと間抜けな声を上げた。
え、え、なに、俺…今…シキミに挨拶してもらえた…?
▼自分は彼女に避けられとるだろう。そうずっと夜中考えてたのに、不意に言われた挨拶に、チクチク痛かった心臓が、少しだけ和らいでいく。
そうして、信じられないっと言わんばかりに彼女を見つめてみれば、シキミはそれに気付いたのか、目を反らされてしまった。
「わ、私…が、お掃除するって…皆に言い…ました…」
「え、え、」
「皆…具合、悪そうだった…から…」
そして、そう続けたシキミ。どうやら俺が来たときの言葉に対しての、ちゃんと説明をしてくれてるみたいで。
そしてシキミの言葉に「(そりゃ二日酔いだろ…)」なんて溢しながらも、俺は今の状況にじわり、温かい感情が胸に広がっていた。
嫌い…、じゃないのか?
俺のこと……?
▼「だ、から…も、少し…待ってて、ください…」
お掃除終わらせます、とそう言ったような感じで、シキミが口を閉じる。
他愛のない言葉の筈なのに、シキミの声がちゃんと此方に向けられてる。
そう分かった瞬間、じわり、じわり、また波紋のように、俺の中で安心とときめきが広がっていく。
「…俺も、手伝うよ」
「え…っ」
「一応ここのマスターだからな!それに…一人じゃ片付けんの大変だろ?」
俺は、やっと彼女に向けて言葉を発する。
「(大丈夫…だよな?)」っと内心また避けられたり、黙ってしまったりしないだろうか、なんて今度はそんな小さな不安が過る。
そして、じっとシキミの顔を見つめてみれば、彼女はマフラーで顔を隠してから、こくんっと首を縦に振ってくれた。
「(よかった…)」
俺はどうやら…シキミには嫌われてはないみてぇだ…