寝ずに彼女を想う

▼あの夜、俺はとぼとぼと自宅へ帰ってから、すぐにベッドにダイブした。

隣には、もう俺より先に帰ったレクターが気持ち良さそうに寝ていて…、
俺はそんな彼の頬を撫でてから自分の元に手繰り寄せた。


「…はあ」


んん、とレクターがスリスリと俺の体に頬擦り。
そして寝息をまた吐く。

俺はそれに為すがままに、ぼうっと天井を見上げる。
漏れるのはため息。


「寝れねぇ…」


▼これまで、こんな気分になったのは…レクターを失ったと思い違いをした日以来だ。

胸が、痛い。今でもチクチク、まだ心臓が刺された様に痛い。


どうして…初対面のシキミに、俺はあそこまで避けられるのだろう。

もしかして、俺が一目惚れしたって知っててそれが…嫌なんだろうか?いやいやまさか…

でも…


「…あんな顔されちゃ、近付けねぇよ…」


必死に自分から逃げる彼女。揺れて、泣きそうに怯えた目。

声を掛ければ体を震わせて、まるで「殺さないで」っと訴えかけてるような、そんな顔。


「…俺、そんなに悪人面してっかな?」


▼それでも、あんな風にあからさまに避けられるって分かっているのに、シキミの対しての嫌悪感なんてなかった


「なんで一目惚れなんかしちゃうんだよ…」


むしろ思うのは、彼女に胸を撃ち抜かれた自分に対しての批判。

それとは裏腹に、シキミの姿を思い浮かべれば、「(触れたい)」「(話したい)」「(笑顔が見たい)」なんてそんなことばかり。


「(もっと、もっと。シキミの色んな…新しい一面を見てみてぇ…)」


「(ていうか!俺は恋する乙女かよ!)」っとぐるぐる彼女に対する、溢れんばかりの熱い思考に対して苦笑いしか出てこない

そうしてレクターを片手、気が付いたら朝を迎えていた。


▼あー…、やべぇ。俺ずっとシキミのことばっかり考えてた。

ほんとなにやってんだか…馬鹿じゃねぇの…


「…シャワー浴びるか」


そういや…、俺とシキミはまだ昨日会ったばっかりだ。

そうだ、まだまだ…彼女に教えなきゃいけないこと、いっぱいある。

俺ばかりがシキミのこと知りたいじゃなくて、自分のことを教えるとこからだろ…。全く。


一目惚れだからって、ちょっと焦りすぎてたんじゃねーか、俺?


「(これから、だよな?)」


彼女と距離縮められるのは、きっとこれからある、よな?







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