不安は無かったことにしよう
▼その日、俺たちはシキミの歓迎会を開いた。「むさい男どもの中で花が増えたー!」っと歓喜に満ちた雄叫びがギルド内に響き渡る。
まあ確かに俺たちのギルドには女は少ねぇけどよっと苦笑いしながらも、俺は酒を口に含む。
歓迎会の主役であるシキミは今野郎共に囲まれて、あわあわ、と慌てては口をマフラーで隠したりと、キョドっていた。
▼今思うと、俺はあの依頼にとても感謝してる。
あの墓地で一人、気持ち良さそうに寝ていた彼女。あの顔を見た瞬間、何かが俺の中を電撃の様に走り抜けたのを、今でも覚えてる。
少し幼いけど、とても綺麗な顔、まるで触れたら雪のように溶けてしまいそうな白い肌、あの第一印象だけで俺の中はシキミでいっぱいになっていた。
……変な寝息立ててたけど。
けれど、少しだけ引っ掛かってることがある
▼「おいー、あんまりシキミを困らせんなよ?」
野郎共に囲まれてるシキミを助けてやろうと、俺はゆっくりとそちらへ向かう。
「なんだよスティングー」「お前も話したいのかー?」なんてニヤニヤ笑ってる奴等に「(そりゃ話してぇよ)」なんて図星を内に引っ込める。いや、むしろ独り占めしてぇんだけどな。
そうして、俺がシキミの方へ近付いていくと、徐々に彼女の表情が強張った。
そうだ、これだ。
初めて会話した時から、起きたときから、シキミは何故だか俺を見ると、怯えたような顔をするんだ。
「…っ!」
「おっ、なんだシキミー。オレが気に入ったかー?」
「あ、オルガずりー!」
そうして、俺とはまだ三歩ほどある距離なのに、その表情のまま、ぎゅうっと近くにいたオルガの後ろに引っ付く。
それにオルガは気を良くして、シキミの頭を撫でてるも、俺は逆にその光景を目の当たりにして、少しだけ眉間にシワが寄った。
「(さっきは近くで話せてたのな…)」
先ほどの彼女との会話が、距離が一気に恋しくなる。会話という会話はしたわけじゃないけど。
それでも、不意に過る「(避けられてるのか?)」という不安を必死に胸奥にしまった。