▼「ねぇねぇ、あの人凄いかっこいい…!」

「外国人だよね、モデルかなぁ」


駅が近付くにつれて、何故だかいつもの帰路の時よりも人混みが増えていた。イヤホンから流れるお気に入りの曲からガヤガヤと人の騒がしい音が混じり、俺はイヤホンを1度耳から外した。

すると、車のエンジン音に女性の小声が更に大きく感じ、駅の近くまで来たからか、駅のホームのアナウンスがこちらまで聞こえる。


「んー?」


辺りの人の視線を釘付けにする何かにより、人混みはあまり進まず、俺は小さく唸り声を上げる。そして思わず少し気だるさと苛立ちが顔に出た。

どうでもいいからサッサと進めよ、と内に舌打ちと共にごちて、俺は人混みの先にある駅に向かうため「すみません」と一言添えながら、左側方向に人を避けながら進むことに。


▼「君、モデルとかタレントに興味ない?君くらいの格好良さなら直ぐに人気になれるよ!」


人混みのざわめきが五月蝿いせいで、イヤホンを付けても意味が無いのでそのまま無心に前へ進む。大体何があるってんだ、こっちは早く帰りたいし。

そして駅の改札まで後ちょっとの所、内に零すは苛立ちによって盛れた私利私欲。

そんな俺の耳に入ってきたのはスカウトの男性の声と、もう一つ。


「興味ねぇ、失せろ」


低く唸るような、刺々しい力強く重い声だった。


▼「(あれ…?)」


その声に引っ張られたかのように、俺は声の方へ顔を向ける。振り向けば、頭1つ、他の誰よりも飛び出ていて、背が高いのは一目瞭然。

そして瞳に写った金色に、俺は思わず口をポカンっと開いた。


人混みの中心になっているその男性は、見た目は一般の男性よりも体は一回り大きく、体格が良い。そして背が高いせいか、短髪に立てられた金髪が更に男を目立たせていて。


『またね!明日も遊ぼうね!』


その金髪を見た瞬間、脳裏に一気にフラッシュバックしたのは…小さい頃に仲良くしていた、綺麗な笑顔をした、あの男の子の姿。


▼「まさか、な…」


昔と違って、外国人が街を歩くのも働くのも、暮らしてるのもおかしくない、差別のない時代。

そんな時代で、今駅に外国人が至ってなんな驚くことでも、おかしいことでもない。ただアレは、他のよりカッコイイから、あんな事になってるだけだ。

それなのに、何で俺…今更あの子のことが出てきたんだろう。


▼すっかり薄れていた金髪の彼の記憶。それが今目に映る別の男性によって呼び起こされる。それはまるで記憶が、忘れないで、と語りかける様なジワリと胸に溢れてくる。


「あ、そうだ!」


それと同時に、俺は思い付いてピンッと背筋を伸ばす。思い付いたら即行動、俺はぐるんっと金髪の男性から勢いよく背を向けて、駅へ走り出す。


▼久しぶりにあの公園に行こう。

小さい頃からやんちゃでガキな俺を見守ってくれた、金髪の彼と出会えた素敵で温かいあの場所で。


「(たまには思い出に浸るのも悪くないか)」







back

×